
どう考える?障がい者の雇用
―ナゾの所長さん―
TNC理念チーム 小西 雅
ここ数年で、「多様性」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
バリアフリー導入が増え、LGBTQやSDGsといった用語も、一般的になってきています。
特に社会的マイノリティと呼ばれる人たちへの理解を深め、偏見や差別をなくす目的で、産学官民を問わず、さまざまな取り組みが行われているようです。
その中で今回は、障がい者の雇用について、私の考えを述べたいと思います。
日本には、障害者雇用促進法という法律があります。
制定されたのは1960年(昭和35年)。しかし当時は、事業者には、障害者の雇用義務がありませんでした。
その後、事業者の義務として、1976年に身体障害者、1997年に知的障害者が、2006年には手帳を所持する精神障害者を雇用するよう、法律が改訂されました。

【旧東側の街 ライプツィヒの駅前】
日本の法制度は、先進国の中でも遅れていると言われています。
今から7年ほど前、ドイツ(旧東側)を旅したことがあります。
伝統的な石畳の路面はボコボコで、ほとんどの建物の入口には階段があります。
バリアフリーでないにもかかわらず、日本より圧倒的に車椅子の方が多く、驚きました。
そしてすぐに、これはドイツの障がい者が多いからではない、ということに気づかされました。
おそらくどの国も、障がい者の数にはそれほど大差ないはず。
日本にも、同程度の割合で障がい者が生活しているはずなのに、街で見かける数が全然違う・・・日本の障がい者は、外出の機会が制限されているのだろう、と考えました。
なぜそう思ったのか・・・ドイツで、街の人がごく自然にハンディのある人たちと関わる光景を、何度も見たからです。
電車では、駅員ではなく、周囲の乗客が声を掛け合って、乗り降りを手伝っていました。
この出来事は、ショックですらありました(日本では、乗り降りの介助は駅員の仕事という感じになっているし、ドイツ人ほど積極的に手伝ったことがなかったからです)。
企業の障がい者雇用について、総論では「多様性を受け容れ、障がい者も等しく雇用すべき」という流れになってきているでしょう。
しかし、各論になると話は別。
「ウチでは難しい」となります。
その理由は「障がいのある人にやってもらう仕事がない」であり、具体的には、
「専門性の高い職業で、任せられる仕事がない」
「危険な現場作業が多く、安全管理に手が回らない」などなど。
はい、それは決して言い逃れではなく、本当なのだろうと思います。
ただし、「現状のままなら」という条件付きで、です。
ではここで、大きく脱線します!
「障がい者」や法律の話はいったん忘れて、「その人に合った仕事、働き方とは何か?」という視点で見てみましょう・・・。
私の前職の取引先の話です。
従業員100名ほどの、鉄鋼関係の会社、Y鋼業。
創業者の会長は、リアカー1台から始めて事業を大きくした、剛腕でした。
Y鋼業には、「所長」と呼ばれる人物が居ました。
仕事は営業です。
会社には、第一・第二営業部があり、それぞれ10数人の社員がいましたが、どちらにも属さず、「所長」です。
で、Y鋼業の社員さんに「所長って、どこの『所』なんですか?」と尋ねたところ、
誰に訊いても、
「知らん」
「所は、ないねん」
という回答。
何か事情がありそうやな?‥‥とは思いましたが、要は、“所がないのに、所長が居た”わけです。
あとで、その詳細がわかってきました。
所長は、会長の実弟だったのです。
今で言う「愛されキャラ」で、強い口調で発言したり、文句を言っているのを見たことがありません。
ほんわかした人柄ですが、口数は少なく、コミュニケーションは苦手なようでした。
そんな所長の営業成績は、社内でも常に上位でした。
だったら、「営業部長」にするとか、実際に「所」を作って部下を付けることもできたはずです。
でも、会長はそうせず、「所長」という役職だけを与えました。
実の弟が平社員では、周囲からからかわれるかもしれない。
そこで、弟のメンツを潰さず、かつ、個人で成果が出せるよう、所長という肩書を与えたのではないかと思いました。
・・・話を戻します。
私はこの事例と、障がい者雇用の心構えには、共通点があると思っています。
「コミュ障だから無理」と結論するのではなく、その人に仕事をして欲しいと思うかどうか、そして、立場や特性を考えて、働ける場を創ろうとしているかどうか、です。
これは、経営者の「覚悟」とも言えます。
障がい者に任せられる仕事がない職場、と言い切れば、それまでです。
雇用を考える前に、障害のある人に関心があるかどうか、が重要です。
働いて欲しいと思うかどうか、そのために、ふさわしい場を作る覚悟があるか・・・。
まずは、障がい者を自分の身内だと思って、雇用の創生を考えてみて欲しいと思います。
この記事へのコメントはありません。