障がい者雇用について
目次
誰もが働いて幸せになる会社をつくる。
私たちTNCは、障がい者の就労の場と機会を作ろうと挑戦する「いい会社」に関わり、支援したいと考えています。
1.障がい者雇用における現状
現在の日本において、働きづらさを強いられている人は多くいます。
雇用のスタートである採用状況では、企業の障がい者向け求人数は障がい者への理解が少しずつ高まり年々増えていますが、求職者数に比べて依然として少なく、求人枠はすぐに埋まることも多く、就職面接までたどり着けるのが難しい状況は今も変わりません。
企業に就職できたとしても1年で6~7割が離職してしまう統計もあり、平均勤続年数は短く、雇用の継続が難しい現実があります。一般的な採用で離職が発生した際の理由として雇用のミスマッチが挙げられますが、障がい者雇用ではこれも含め、離職理由は障害の種類、家庭の事情など一般的な雇用に比べて多岐に渡るようです。
障がい者雇用を取り組もうとしている会社また取り組み始めた会社でお悩みを伺うことがあります。
「接し方が分からない。採用ができない。教育もできない。障がい者向けの仕事を作ることさえできない。経営者・上司の理解がなく、社内の理解も得られない」といったものが挙げられます。
従前の課題として、社会的に障がい者と健常者の接する機会が少ないため、今までの人生の中で障がい者とのふれあう機会がないまま、成人となり働いてきた人が多く、未知の分からないものへの不安感や根拠のない偏見を抱いている人がいることを知っておく必要があります。
これを踏まえ、中小企業では一度も障がい者を雇用したことがない、障がい者との接点がない企業が多く、これに伴い人事・総務の採用担当者としての具体的な悩みは「採用や雇用継続・労働環境の整備の仕方が分からない、人件費・設備投資費用がかかりそうで敬遠している」となり得ます。情報の少なさと、障がい者自体への理解以前の段階で止まっているようです。もちろん雇用される側である障がい者の就労への姿勢、普段の態度、時には能力も含め、就労に適さないと企業側に判断されてしまうこともあります。
このように雇用と就労そして就労継続の難しさは企業側と労働者側の双方に課題があるとして考えたほうが良いでしょう。
解決に至るプロセスには次のテーマを考えることからお勧めします。
A.障害への接し方、障がい者への接し方
大枠で障害の種類は、身体、精神、知的と分類されていますが、医学的には、細々と一つ一つずつ分類されており、各々に特徴があるため、接する側の対応方法も合わせていく必要があります。実務としては個体差があるため、個人別に異なる対応、その人と接して分かることも多く、会社の担当者とすれば過大な学習も必要で大変に思うかもしれません。
あってはならない事例として、全盲の人を集め一切の光が入らない部屋で仕事をさせている話やそれら障害特性を誤解した処遇を聞いたことがあります。目が見えないからといって何も感じないわけではありません。そこには障害の有る無しに関係なく、そもそもの人としてのあり方、企業の対応が問われています。
B.国の施策と経営者の心構え
国は障がい者雇用が進まない現状を少しでも解決するために障害者雇用率を定め、企業に従業員との比率に合わせた障がい者を雇用するよう求めています。
この場合、障がい者手帳を有する者を雇用することで雇用人数としてカウントされるため、手帳を持っている人の方が採用される面もあり、手帳を取得するかどうかを迷っている人や家族にとって手帳を持つ理由の一つとなります。
一定数以上の従業員を雇用している企業の場合、法律によって法定雇用率を達成しない場合には不足一人当たり月額数万円を国に納付する必要があります。
それでも頑なに障がい者雇用を進めない企業もあり、「障がい者を雇用するくらいなら、お金を払った方が良い」とする経営姿勢が感じ取れてしまいます。
しかし、インターネットで容易に情報を収集することができる現代において、このような姿勢の企業であるとした情報に、関係者や支援者、一般の人々が触れる機会が増え、時には批判にさらされることも容易に想像できます。地域に根差している中小企業も、それら批判に晒される時代でもあります。
これにより取引や従業員採用にも影響が出ると予想します。大切なことは、このような外部からの圧力の形で仕方なく取り組むのではなく、従業員の幸せのため、誰もが働きやすい職場をつくる目的で自発的に取り組むことなのです。もし性善説で考え「障がい者雇用を進めたいが、やり方が分からず躊躇している」のであれば、ぜひ相談からでも始められたらよいでしょう。
C.障がい者を持つ親の将来への心配
障がいを持った子を育てている親御さん(保護者)は、自身がいなくなった後を心配されています。子を支援してくれる人、子の居場所、子の生きがいといった生涯の様々な場面に心配があります。雇用の場は生活の場であり、生活の糧を得る場である場であり、企業によっては生活の支援も行う場合もあるため、就労の可能性に期待を寄せている方も多くいらっしゃいます。
反面、親が子に対して過保護になってしまい、子の就労の機会を奪ってしまう事例も聞いています。成功事例として親と会社との密なコミュニケーションによって連携して子(従業員)に接したところ、家庭内と会社での体調や精神が安定し就労が可能になるケースもあり、親は子を信じて接し、会社(社会)に送り出すこと、企業は保護者との連携が大切です。
このように従業員のみならず家族をも大切にする会社が増え、共感するご家族が増えれば課題が解決する場面を経験しています。
D.障がい者手帳の有無にかかわらず
いつしか言われるようになった「空気を読む」「忖度」のように人に対して誰にでも一定の基準以上の、それもかなり不自由なほどの基準を求める風潮が高まりつつあるように感じます。気が合わない者とはコミュニケーションをとらない、相手を分かろうとしない、情報が入ってこない、といった分断が進むことは実は社会(会社)全体の機能を低くしている原因の一つであり、誰もが働いて幸せになる社会(会社)とは反対の方向へ向かっています。
障がい者手帳を持っているかどうかにかかわらず、病気や体のどこかに不調を抱えている、何らかの事情を持っている人は普段気にしなければ見えないだけで多くおられます。
月に数回、病院に通院しながら働き続けることの難しさ、障がいの特徴に合わせられず働けない人、何らかの能力が低下もしくは足りずに採用されない人など…じつは個別に能力に合わせて仕事があれば解決するはずなのですが解決できていない会社が多く、これらも障がい者雇用と共に取り組むべき課題です。
2.障がい者雇用のあるべき姿
私たちは『「いい会社」見学会』と称し、人を大切にする企業、特に中小企業を見学してきました。その企業の多くが障がい者を含めた社会的に弱者とされる人々を雇用し、それも特別扱いすることなく、健常者、正社員、といった区別による差別も無く、お互いを認め合い仲良く働ける職場でした。中小企業であっても障がい者が働きやすい労働環境を整えることは可能なのです。
A.社会的弱者保護による社会貢献ではなく、戦力として期待する。
障がい者雇用と言えば「社会的弱者保護による社会貢献」を連想する人が多く、経営者の中でも「社会貢献したいから雇用したい」と発言される方も時折見かけます。
社会貢献を目的とした雇用をすれば、景気が良い時は良いかもしれませんが、経営の不調が出たとき、どこまで雇用を続けられるでしょうか。
事業を再構築する際、真っ先にカットする項目に入っているのであれば当然ながら雇用の継続は望めません。このような意向であれば良かれと思った障がい者雇用が企業側と従業員側の双方の不幸になってしまいます。
障がい者は働けないと考える人がいる一方で、工場の品質や安全性において健常者のみの同業他社と比較しても上位に評価される、障がい者を中心とした会社が現実に存在します。私たちが「あるべき姿」として参考にさせていただいている「いい会社」では、基本姿勢として障がい者を経営上の戦力として期待し、実際に会社の役に立つ採用し、育成もしくは戦力化の仕組みを工夫しています。
採用の事例では就労継続支援事業A型という、障がい者が一般就労できるように職業能力の向上と訓練を兼ねた仕事をしている障がい者就労継続支援事業との連携があります。
その事業所の中で採用前に自社の本業での仕事を体験してもらい、働ける能力を見定めたうえで一般企業への就職へ移行してもらう形で非常にスムーズに就労の現場へ入れる様子を見たことがあります。会社によっては本業が工場で別法人として就労継続支援A型B型を経営し、工場の現場作業へ入りやすいよう工夫されていました。採用時にはやはり障がい者の前提より会社と求職者個人の相性の方が重要視されています。その上で本人の能力と仕事内容との調整がなされています。例えば「知的障がい者だから単純作業は得意」といった思い込みは避け、一人ひとり本人の希望と得意分野を尊重した採用と配置が望ましい姿です。
また戦力化の仕組み、働きやすい職場づくりの事例として、テーブルの高さから照明の照度、個別の職務スピードの違いを計算に入れた調整、時には作業がしやすいよう自ら治具・補助道具を作成して働きやすくする工夫をする、自主的な改善活動を楽しそうに行う様子に、前向きな組織の感情を観察し、それを支援する企業側の姿勢を見ることがありました。
育成面で一例を挙げますと知的障害がある場合、非常にゆっくりとした時間の中で生きている感覚をもち、10年を一区切りとするくらいの気持ちで接する必要があります。どのような状況であっても、目標を小さく細やかに設定し、職場の皆で達成できるように取り組む会社が多いように見受けられます。ある会社の上司の方からお聞きした話で「知的障害を持つ○○さんは採用当初は会社の中でじっとしておれず、一緒に公園の砂場で過ごす状態からスタートしたが、10年後に障がい者中心の職場でリーダーとして働くまでに成長した」といった例のように、人はいつでも可能性を持っていることに希望を持ち、辛抱強く待ち続ける先に素晴らしい出来事が起こるかもしれない、として長期的な視野での採用と育成の計画を立てることが重要になるように支援していきます。
また、社会貢献の意味での雇用を行った場合、健常者の従業員が彼らを養っているような感覚になってしまうこともあり得ます。それでは障がい者の方も居心地が良い職場にはならないでしょう。人生の多くの時間を会社で過ごすうえで「その場に居ていい」「認められている」肯定感は非常に大切です。それは何より人生の幸せであり、居心地の良い場所として働けるように、経営者は従業員に対して「あなたの仕事に期待している」姿勢と実際の仕事があるべきではないでしょうか。
B.貢献度を高め、相応の報酬を支払えるようになる。
労働条件では短時間就労で最低賃金以下の給与額となっている企業が多く、一般的な就労とは異なる待遇、雇用契約内容が多いのが現状ですが、成功事例になる「いい会社」では障がい者へも最低賃金以上の給与額を支払っている企業があります。
当然ながら、最低賃金以上を払えるようになるには、最低賃金以上の仕事をしてもらうことです。
それには従業員自身に成長してもらうか、働きやすい職場を整えて付加価値の高い仕事をしてもらうかのどちらか、または両方が必要であり、企業側には成長の機会を与える教育や労働環境改善へのたゆまない努力が求められます。
実際、障がい者雇用のみならず、どのような人であっても同じ仕組みが必要です。
障がい者雇用の視点から丁寧に取り組むことでどのような従業員に対しても丁寧な教育や環境を提供できるようになり、それは従業員とその組織全体の成長に繋がります。これは障がい者雇用を進めた企業のメリットとなっており、実は障がい者雇用を成功させている企業は業績も良いケースが多いのはそのためでしょう。業績のためだけではなく従業員のしあわせのために世間の固定観念にとらわれず、給与について「最低賃金以上を払える会社」を目標としてはどうでしょうか。
C.業績が先か
先に業績が良い企業が多い話に触れましたが、気になるのは「業績が良くなったら雇用を進める」という意見です。確かに、赤字続きの企業が取り組むには難しい面があります。継続的に一定の利益を上げる力をもってスタートさせることが望ましいのですが、極端な見学事例では一人目の従業員に障がい者を採用した会社もあります。大切なのは「どのように働いてもらうか」であり、「人を活かす視点」から判断することです。
D.障がい者雇用が成功する組織
障がい者雇用が進んでいる会社には特徴があります。
定年を超えた従業員が働き続けている、出産・育児・介護をしながら働く従業員が多い、更には様々な種類の障害を持った人々が集まり仕事をしているなど、様々な事情を持った人たちが多い会社にみられます。
実務として、相手を特別扱いせず、しかも必要な部分で気に掛けている様子であり、ある会社では「愛情ある無関心」と表現されていました。言い換えれば「互いを認め支え合っている」「困った時はお互い様」の考え方で受け入れる「多様性に寛容な組織」です。そのような組織が望ましく、目指すべき組織のあり方でしょう。
労働人口が減少していく中、1日8時間を働き、更には時間外労働をすることができる、特に男性中心の従業員モデルに沿った人材の確保が中小企業では難しくなってきており、従来の従業員モデルを想定した仕事の進め方、ひいてはビジネスモデルは今後、機能しなくなってくるのではないかと予想しています。
フルタイム・フルパワーで働き続ける男性従業員モデルから、お互いに弱みを知り、「強み」や「できること」を出し合い支え合うモデルへの転換、その意味での適材適所であり、つまり、「多様性を活かせる企業」が変化に対応でき、力強く、生き残っていくのではないかと考えています。その多様性の中には当然、障がい者も入っています。
3.まとめ
「いい会社」になりたい想いがあり、その要素の一つとして障がい者雇用に取り組みたいが方法が分からず躊躇しているのであれば、外部の専門家の力を借りて進めてゆくことをお勧めします。
障がい者雇用とは雇用のみの手法で済む課題ではなく、採用さえしてしまえばよいものでもなく、組織文化や企業全体とその周辺ともつながっており、広い視野で課題を捉え、取り組む必要があります。中小企業でもできる、また中小企業だからこそ成功・成立する世界もあります。
経営者、担当者の方は「自社でもできる!」期待を持って取り組んでいきましょう。