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「リスキリング」と「リカレント」を同時提供する社会人向け大学教育

現在、「学び直し」が注目されています。「学び直し」には2つの志向性があり、「リスキリング」と「リカレント」に分けられ、オンライン上では以下のように整理されています。

  「リカレント(※循環・回帰の意)教育」という言葉は、「生涯学習」とも言い換えられ、個人を主体とし、人生を豊かにする学習行為を指すものだ。…個人主体の「リカレント」に対し、企業主導であり、仕事において価値を出し続けるためのスキルや知識の習得、そのための学び直しが「リスキリング」だ。…リスキリングは、経営課題を解決するための企業の施策のひとつという側面もある。

ダイヤモンドオンライン:2022.5.19『DX時代を行き抜くための「リスキリング」』 より引用

https://diamond.jp/articles/-/303393

 成長が停滞している日本経済の転換を図るための国家政策(労働市場の流動化)であり、働く側にとっても産業構造の変化という荒波を生き抜くための「リスキリング」が今後ますます注目され、社会人向け学習産業市場の拡大が見込まれます。

では、「リカレント」志向の学習市場は淘汰されてしまうのでしょうか?

 筆者は中小病院の事務管理部門で働きながら、「リカレント」を求めて40歳を超えつつ放送大学大学院に入学、修了後も勢いが余ってしまい、現在埼玉大学大学院の博士後期課程に在籍しています。

 放送大学は学部生数6万人超(全科生)、修士学生数(全科生)も700人を超えます。科目だけの学生(1科目ごとの受講が可能)も併せると学部生で8万人、修士学生は3,600人を超えます(※令和5年度、放送大学サイトより)。全学生のうち60歳代以上が約22,000人を占め、10歳年齢区分では最大値です。年齢を重ねながらも(もしくは年齢を重ねたことによって)リカレント的空間を求める方々が多く存在することが窺えます。放送大学の講義内容は他大学に引けを取らないハイレベルな研究者によって構成されていることも知られており(リスキリングも可能)、そこに挑む方々の姿には感銘すら受けます。最近では101歳の卒業生を生み出したことでも報道がなされていました。

 ここでお伝えしたいことは、「リカレント」も「リスキリング」も同時に学べる場が大学にはあるということです。筆者は氷河期世代のど真ん中、2000年代に非正規化する労働市場において直の非正規現場で苦しんだ経験があり、社会的に排除される方々(自身も含め)の諸問題について関心を抱いています。しかし、同時に経営的管理を考える仕事に就いており、実学的なリスキリングも得なければなりません。そこで勢いだけで入ってしまった大学院の世界ではありますが、その有用性、学問の深さを体験できていることに大変な面白さを感じています。

 現在在籍している埼玉大学では主に経済学、経営学を受講しています。経営学についてはどうしてもMBAに代表される経営者目線の学問になりますが、その分実学として有効な示唆を与えてもらえます。また、経営者目線に限らない、働く側の視点も含めた「経営戦略とは何か」「組織とは何か」といった命題を思考する学びも多くあり、学問の深さに対し、自身の非力さに打ちのめされます。経済学は幅広く経済事象を扱い、社会を包摂する視点があるため、あらゆる事象が研究対象となります。そこでは社会的に排除されている方々も含めてどのような社会的視点が必要か、という思考が試されます。

 資格取得を目指す通信講座、社会的上昇を目指すだけのビジネススクールといった「リスキリング」では、そこに費やす労力も重なるため、学んだ本人自身が「自己責任論」に傾斜しがちになります(「俺はこんなに頑張ったんだ、努力しないやつが悪い」)。自己責任は近代に必要な社会意識の要素ですが、もう少し視点を拡張すると日本は「メンバーシップ型労働社会」であって、「自分の会社メンバーさえよければよい(=下請会社・派遣・パート・外国人技能実習生・障害者などはメンバーではなく排除の対象)」という社会的性格を持ち合わせています。このいびつな自己責任論が現在の経済的停滞を生み出しているとも考えられます。ここに必要なのは、社会公共的視点をもつ「リカレント」なのだと思われます。ビジネスをリタイアした年代の方々が、「リカレント」な放送大学を求めている姿はその証左です。

改めて申しますと、「リスキリング」も「リカレント」も同時に学ぶことのできる社会人向け大学をお考えになってはいかがでしょうか?その空間が新しい自分を発見することや、これまでの生き方を自分自身で認めていく、という作業を支援してくれます。大変なのですが。

是非ご一考ください。

 

※追記:大学研究者の世界は就職が厳しく、大変な椅子取りゲームが展開されているため、その結果なのか「自己責任論」が強く、あまり「社会を考えていない」先生もいますのでご注意を。

鹿島謙輔

リサーチマップ:https://researchmap.jp/norisuke.kashima

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