
言葉の「意味」と「意図」を一致させる
「あなたのおかげです」
という言葉を聞いて、みなさんはどういった印象を受けるでしょうか。
職場で、取引先で、仲間内で、この言葉を言われたとして、例え社交辞令だったとしても、悪い気はしないでしょう。
でも、実はとあるテレビゲームでは、この言葉は「煽り文句」の代名詞となっています。
そのテレビゲームは「2人対2人」で戦うゲームなのですが、対戦で負けたときに味方にこの言葉を言う(厳密には定型チャットで打つ)と、それは「おまえのせいで負けた」という意味になります。
では、
「絶対押すなよ」
と言われたら、どうでしょうか。
これを、お笑い芸人が熱湯風呂の前で言ってたら、十中八九「押せ」ということで間違いないでしょう。
でも、柵のない崖みたいなところで友達に言われたら、それは言葉の意味そのまま「絶対押すな」と言っているに違いありません。
このように、言葉は、同じ言葉でも、その場の状況や、言う側と聞く側の文脈などによっては意味が変わってきます。
これは、言葉には言葉自体の「意味」と、それを言う人の「意図」があることが原因の一つです。
上の例でいうと、「あなたのおかげです」という言葉の意味は、意味通りであれば「感謝やねぎらい」となるわけですが、とあるゲームでは「他責や罵倒」を意図して使われているため、意味と意図に乖離が生じているわけですね。
職場においても、こうした言葉の意味と意図の乖離は良くある話です。
会社の上司が、本当は期待してるんだけど「あいつはまだまだダメ」と部下を評する。
仕事を頼むと、いつも「面倒くさいなあ」と文句は言う、けれど別に拒むことなくやる。
あと、「忙しい」と言いつつ、とっっっても暇そうな人とかもいますよね。
最後のはともかく、他の2つの場合、その言葉を言う人のことをよく知る人はその意図を捉えることができます。
しかし、それほど親しくない人には、言葉は、言葉の意味のままにしか伝わりません。
そうなると、言葉の意味のまましか意味を受け取れない関係性の人からすると、
「あの上司はいつも部下の文句ばかり言ってる」
「あの人はいつも仕事の文句ばかり言ってる」
となってしまうわけです。
言葉の意味と意図を一致させない言動というのは、ときに笑いを生んだりするので、悪いことばかりではありません。
また、意味と意図を一致させていたとしても、聞く側の捉え方によって、言う側の思うとおりに受け取ってくれないことがあるのもまた事実。
それでも、多くの場面では、言葉の意味をそのまま受け取られることが多いことでしょう。
そのため、職場において組織においては、それを言うのが経営者であろうと労働者であろうと、言葉の意味と意図はできるだけ一致させた方が誤解のない、スムーズなコミュニケーションが可能となるのではないでしょうか。
何か職場内がギクシャクしてるなと思ったら、こうした言葉の意味と意図の不一致が隠れた原因としてあるのかもしれません。
資料:川添愛 言語学バーリ・トゥード: Round 1 AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか(東京大学出版会)
川嶋英明(社会保険労務士)
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