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障害者支援ビジネス「企業向け貸農園」について考える

TNCメンバーの白根邦子です。
今回は、障害者支援ビジネス「企業向け貸農園」について考えてみたいと思います。

 「障害者雇用率制度」を聞いたことがありますか?民間企業や国・地方公共団体に一定以上割合で障害者を雇用するように義務づけた制度のことです。
労働市場においては、障害者は一般の就労者に比べて雇用機会を得にくくなっています。
そこで、一定割合の障害者の雇用を義務づけることで、一般の方と障害者の雇用機会を均等にすることが雇用率制度の目的です。

法定雇用率は事業主の区分によっても異なりますが、現在では、事業主別の法定雇用率は次のようになっています。

  • 民間企業:2.3%
  • 国・地方公共団体:2.6%
  • 都道府県等の教育委員会:2.5%

 

この雇用率という数字が、社会の分断を広げる要因になってしまっています。

定められた2.3%を達成できなければ、労働局から指導され、不足分1人あたり原則月額5万円の納付金を徴収される。改善が進まなければ、企業名を公表されます。

ペナルティーとも受け取れる制度に追い詰められた企業が、企業を救うビジネスの一つ「企業向け貸農園」に流れている場合もあります。

 

 「新版 障害者の経済学 著者:中島隆信(慶応義塾大学商学部教授)」では下記のことが書かれていました。

東京都千代田区に本社があるエスプールプラスという会社は千葉県に所有するハウス農園を企業に貸し出し、企業が雇用した障害者に農作業をさせている。企業は障害者を雇い、給料も支払っているので雇用率にカウントされるが、働く場は企業ではなく千葉の農園で、できた農作物は企業が福利厚生として社員に配ったり、社員食堂の食材に活用したりする。そして作業場提供の見返りとして企業から障害者1人当たり月額15,000円の手数料を受け取るという仕組みだ。

(中略)

障害者雇用に苦労している企業にしてみれば、法定雇用率の引き上げに対処するため「背に腹は替えられない」というのが本音だろう。

 

 2018年、当法人が就労継続支援B型事業所ハッピーワーク松戸を開設した年に、エスプールプラスの「わーくはぴねす農園松戸」ができ、農園従業員が当事業所へ挨拶にきて概要を説明していったという経緯があります。挨拶にきた従業員は「障害雇用を創出し、社会問題を解決するソーシャルビジネス」と話していました。

私は、社会の問題解決を逆手に取ったビジネスで何ら法律に引っかかることはないwin winの関係になるビジネスでもあるが、しかし「社会での分断と隔離」ではないだろうか、というモヤモヤする気持ちで当時話を聞いていました。

 

 そのモヤモヤを晴らすべく、先日(2022,12)わーくはぴねす農園松戸へ見学にいきました。

 東松戸から歩いて10分にところに農園があります。ハウスの中には各企業名が書かれた看板がかかっています。大企業の看板が掲げてある何棟ものビニールハウスは大企業が障害者雇用する持ち分です。また違う企業の看板には~特例子会社と明記してあり、農園を特例子会社として活用しています。

 案内してくれたチーフのK氏は「農業にノルマはないので無理なくその人にあった働き方ができます」「企業としては利益を求めるわけではない」と話し、「ノルマはない」ということを何度も繰り返していました。

 障害に応じた無理のない働き方は必要だが、仕事に「ノルマ」がないというのは、仕事での達成感、向上心、やりがいが見いだせるのでしょうか?

 また、各企業の社員との関りやコミュニケーションなどはあるのか聞くと、作った野菜を本社へ送り雇用している障害者が作ったと書いてあるプレートなどで紹介している企業や、企業として子ども食堂へ野菜を寄付することが最近は多いとのことでした。

 ここでも疑問に残るのは、障害者雇用をしているものの直接社員と関わる機会は少なく、作った野菜の活用方法に困っている(あくまでも個人の意見です)ように感じました。

この日は農薬散布の日でしたので、ハウスの中には入れず外から見させていただきました。

無農薬有機野菜ではないのですね。

 

中島氏は

実際、エスプールプラスのビジネスを掲載している新聞記事には「ビル清掃や事務部門での受け入れは限界に近づいた」との企業のコメントが紹介されている(日本経済新聞2015年3月6日)。つまり、これ以上、障害者のために切り出せる仕事がない企業にとってみれば、厚労省から「未達成企業」の烙印を押されて評判を落とすくらいなら、賃金と手数料を払ってもエスプールプラスに障害者を引き受けてもらった方が得策と考えても不思議ではない。

 

 見学時にもらったエスプールプラスの冊子に「業界唯一。『行政連携』での農園展開 障害のある方の雇用創出、就労機会拡大に貢献するために『行政』とも連携しています」と

あり、板橋区、さいたま市、みよし市、春日井市他、の市長との写真、国土交通省鉄道局の雇用セミナーの写真が掲載されていました。

 

自治体関係者の中には「工賃の高い福祉作業所だと思えば良い。家族や本人は喜んでいる」と話す人もいます。

 やはり、誰しも働いてより多くの収入を得ることは、生活の安定や将来の不安から解放されることであります。障害のある方と企業の雇用課題解決策として「企業向け貸農園」事業を全て否定することはできません。

 

最後に、中島氏は

この問題に対処するための方法はひとつしかない。それは障害者が本業で力を発揮できるように働く環境を整えることである。すなわち、障害者の仕事を増やすことが企業収益の拡大につながるような雇用の創出である。これこそがファーストベストな選択であり、それを障害者雇用の最終的なゴールとすることにまったく異論はない。

 

今一度「共生社会」とは何かを考える必要があります。

 

参考著書: 「新版 障害者の経済学」中島隆信(慶応義塾大学商学部教授)

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