経営の観点から病院を訪問するのは、初めての経験であった。まず、病院に入って、病院独特の消毒液のような匂いが一切しないということと、診療を待つ多くの人々がいて雑然とした雰囲気が皆無で、清潔で整然とした、これまでの総合病院の印象を覆すものであった。

施設案内では、病院の運営においても明確なミッションとそれを実現するための経営戦略、その一連の流れを確固たるものにするマネジメントが実践されていることを強く感じた。具体的には、「患者さんを元気に返す」というミッションのもと、初期診療から検査、通院あるいは入院そしてリハビリというバリューチェーンが明確に意識されている。そのバリューチェーンが、実際に病院の施設の設計に反映されており、一連の処置に澱みがなかった。

また、ウォークインの患者は受け入れず、救急および紹介による患者のみを受け入れるという基本方針についても、バリューチェーンの最初のステップを明確にしている特徴である。この点に関しては、一般人が抱く常識からすると、何かドライな印象を受ける。しかしながら、救急体制を万全にするということ、そして、紹介を通じて地域の開業医との分業が促進されることによって、結果として、外来に長時間待たされるといったロスが解消される。ちなみに、近森病院では、開業医のリストを自前で作成して患者に配布されており、医療の分業を促進している。つまり、病院にとって患者にとっても開業医にとってもウィンウィンの関係になるということである。まさに、マネジメントの発想が活かされ
たところであろう。

このような発想の原点について近森医師は、救急病院としての経験が、コアコンピタンスを自覚させ、それに基づく戦略およびマネジメントを実践することになったとヒアリングで見解を述べている。いくら経験があったとしても、それを実践につなげるのは、また別の話である。この点に関しては、近森医師の経営者としてのスキルの高さが極まっている。医療環境の変化の見極め、情報の分析とそれに基づく意思決定といった経営者に求められるスキルを身に付けられていると認識した。
今回の近森病院の訪問では、これまで抱いていた病院像をいい意味で覆された。

とりわけ、コアコンピタンスあるいはバリューチェーンといった経営戦略に裏付けられたマネジメントの実践されている点は興味深い。また、病院においても経営感覚が必要であり、そのためには感覚に秀でたトップが病院においても求められていることを認識する機会であった。とりわけ、近森医師の場合は、医療だけにとどまらず経営さらには文化といったジャンルを超えた教養の深さが、経営感覚をとぎ澄まされたものにしているのであろう。