理念の作り方

経営を広い範囲で照らす「企業理念」をつくってみませんか。
時間軸を長くとり、そして継承するために大切な理念を考えてみませんか。私たちTNCでは「理念のつくり方」を共に考えていきます。

目次

はじめに

このTNCのホームページにアクセスして、「理念のつくり方」の項を開いてくださり、ありがとうございます。「いい会社」に興味をもっていらっしゃるのだと思い、お話させていただきます。また、「企業理念」に対して、何かしらのアプローチを必要としていると推察します。もっといえば、少しでも「いい会社」になりたいと思っていらっしゃるのだと期待してお話していきます。

ここでは、「企業理念のつくり方」について順々に述べいきますが、その中でも「最も大切なのは、その考え方」になります。

ここで残念なことをお伝えしなければなりません。
「いい会社」経営をするにあたり、素晴らしい「企業理念」がある!とは言いきれません。
素晴らしい「企業理念」がある会社が多いですが、絶対ではないということです。それは、経営者自らが動く「企業理念」となって実行されている場合なのです。それでもグローバル化や事業継承において、「企業理念」が必須になることは間違いのないところです。

これから「いい会社」経営を目指すならば、「企業理念」は絶対に必要であり、かつ、あればいいという次元ではなく、想いがこめられているものでなくてはならない、と言えます。そのため、冒頭に述べたように、「最も大切なのは、その考え方」になります。

○企業理念とは、どのようなものか?

「企業理念」は掲げるものとして、ではなく、活用するものです。誰しもが、そう思っていますが、実際、掲げたままになっている会社も多く見かけます。どれほど素晴らしい企業理念であっても、活用していなければ意味がありません。

「企業理念」は、「創業者の想い」といってもよいかと思います。自社の存在意義を現わすものであり、何をして社会に貢献するのか、どういう会社で在りたいのかという宣言なのです。それゆえ、「企業理念」は企業を経営していく上での軸や原点となるのです。経営環境は時代と共に変化が激しく、迷うこともしばしば、その時に「この軸や原点」に立ち返れるのも大切なのです。

そして、「企業理念」から社員さんが仕事をする時の「基本的な行動や計画」の座標ともできるのです。よく言われています「社風の源泉」でもあり、私たちTNCでは「永続の鍵」として扱っています。

「企業理念」には類似している言葉がたくさんあります。それらを挙げれば、経営理念、社是、社訓、クレド、信念、大義、ミッション、フィロソフィ、ウェイ、使命、志、パーパス、基本方針・・などがありますが、特にクレドやミッション、パーパスは、経営手法として一世風靡していたので、気になったことが一度はあるのではないでしょうか。
経営手法として流行っているということではなく、重要なのは「どのような想いが込められているのか」ということです。

「企業理念」なのか「経営理念」なのか「ウェイ」なのかは、言わば、どうでもいいのです。一つひとつの言葉に対してオーソライズされた定義はないので、どのように使おうと「その会社の定義」なのです。「これが定義だ」と論じている学者さんも書籍も「企業理念」を指導する会社もありますが、「その会社の定義」として論じられているだけです。その時の経営手法の流行りによって使用され言葉が変化することもあり、それぞれ類義語である「企業理念」の言葉に惑わされる必要はありません。

本項では、その会社の法人格としての理念として、「企業理念」という言葉を使います。
「企業理念」は企業そのものの理念であり、「経営理念」はその時の経営者の理念という位置づけですが、松下幸之助翁が「経営理念」として明文化したことから、多くの企業で「企業理念」を「経営理念」として表現しています。
私たちTNCでは代表の理念ということから「経営理念」と表現していますが、代表が変わったとしても変化する理念とは思えず、実質、「企業理念」としていいでしょう。(ここは、代表の「こだわり」なので、経営理念でも「それもまたよし」なのです)。

○「企業理念」には創るタイミングがあるのをご存知ですか?

強い想いのもとに創業された会社であれば、その強い想いが「企業理念」となっています。様々な理由により創業され、「企業理念」が明確になっていないまま続いている場合もあるでしょう。創業者であっても、数年経ってやっとできる場合もあります。旧松下電器産業株式会社では、創業して10年が経ってから「企業理念」を確立させ、そこを「命知元年」としています。

初めから不変の「企業理念」を作る必要はなく、最も大事なのは、その想いです。そのため、「企業理念」を見なおそうとしていることも適切な行動なのです。更に、「企業理念」を発表する時は、周年記念などのお祝いの節目に合わせると、この日を境に変えていこう、という御旗になります。こういう記念日を持つ企業が成長していくことも多いのです。

どの表現を選択しようとも、その企業にとって最も大切であり、組織の共通の考え方として、働く人に浸透していきたい事柄であることは同じなのです。「企業理念」を社外から見ると、共存するための場所(事業領域)や役割の明言になり、「何で社会に貢献するのか」という法人としての存在意義や、「何を大切だとしている会社なのか」という宣言になります。

更に社内においては、お互いが協力してどのような貢献を成していくのか、この会社は「働くこと」をどのように捉えているのか、自分はどのような行動をとればいいのか、何をどのように判断すればいいのか、などを考えていく土台になります。

○日本の状況から考える会社の在り方

少子高齢化が進み、生産人口が減少していく時代、中小企業の採用はますます困難になっていくことが予想されます。けれども、「いい会社」には、数名の募集に対して数百名が応募してくるなど採用の困難さとは無縁であり、「いい会社」かどうかは採用における格差にも広がってきています。存続するために「いい会社」にならないと、働く人の高齢化により消滅していくという事態も起こり得ます。

また、消費人口も減少し、且つ、高齢化により自己のための消費が減っていくことを考えれば、経済社会としてもこれまでのような拡大路線ではなく、大多数を占める働く人が豊かで幸せであるのに必要とされる分を回していけば良い時代に入ってきているという見方もできるのではないでしょうか。その時に、拡大路線で売上を追い求める在り方は、本当に必要なのでしょうか。

更にいえば、過剰生産による価格破壊や余剰物資の廃棄は、誰も幸せにしないばかりかSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも回避すべきことだともいえます。脱成長として、経済成長もグローバル化も根本的に見直してみてはいかがでしょうか。更に、外国人の採用も念頭にしていく必要もでてきます。
資本主義による、奪い合いを含む量的な幸せから、人を大切にする質的な幸せに変化しつつあることを認識して、会社をどう在るべきかを考えてみてください。

更に、会社が利益偏重、株主重視になることで維持されてきた資本主義の在り方は、SNSの発達により変化してきています。企業の在り方がSDGs(持続可能な開発目標)とは反対の方向性を示していたり、不祥事を起こしたりすれば、消費者から製品やサービスのボイコットなどが起きる確率が増しています。製品やサービスを購入する動機に企業の在り方を含めることは、博報堂の調査結果からも傾向として出ています。

1985年の「プラザ合意以前と以後とで、日本経済は本質的に変わった」と言われています。もう、40年近く経とうとする、このプラザ合意の時代は「ジャパンアズナンバーワン」でした。その変化は、会社が働く人の「場」であったものが、働く人が資源として扱われるようになったのです。資源を「なくてはならないもの」と解釈する会社があると同時に、交換できる部品と同じように捉えている会社もあります。自社に集ってくれている従業員さんは、どちらの資源でしょうか。それとも、経費ですか?

○実は、会社は他の機関よりも信頼されている

内閣府(2011年)による「幸福度に関する報告 」において、「制度・組織への信頼」を「中央政府」「地方公共団体」「議会」「司法制度」「報道関係」「企業」について調査したところ、企業は低い数字ながらも他よりは信頼を得ているという結果となっています。

「信頼していない」 : 「信頼している」の比率
中央政府      63.0%   :   7.5%
地方公共団体    48.8%   :   13.7%
議会        61.9%   :   5.4%
司法制度      37.4%   :   22.2%
報道関係      53.0%   :   10.7%
企業        31.4%   :   17.1%

国や公共団体よりも企業の存在は身近であり、信頼される存在として果たす役割は大きいといえるのではないでしょうか。また、「幸福度との関係」は、「全く信頼していない」という人の幸福度は低く、「非常に信頼している」という人は高いという関係も報告されています。会社側が「幸せに働くこと」を意識するかどうかが人びとの幸福度を左右する、と言っても過言ではないと思います。

これは、すごいことだと思いませんか?

自社の製品やサービスを提供することで、世の中を良くしていくだけではく、存続すること自体がとても価値があるのです。存続して、関わる人々の信頼に応えることで、人を幸せにしていくことができるのです。あなたの会社は、「幸せ量産装置」としてみることもできるのです!それを経営しているあなたは、なんて素晴らしいのでしょうか!!

企業理念を考える時に、これからの会社の在るべき姿をよくよく考えてみてください。今までの延長線上で考えるのではなく、創業の想いを発端にしてゼロベースで考えてみてください。そこで働いてくれる人たちは、どんな人たちなのでしようか。

今はまだ「いい会社」ではないかもしれません。従業員さんたちへの愛情はあっても、空回りしてしまっているかもしれません。それでも、少なくても、政府よりも信頼されているのです。世の名を善くしていくのは、会社からなのです。つまり、あなたからなのです!

それでは、いよいよ本題に入ります。
いろいろと考えながら読み進めていってください。少しでもお役立ちになれば幸いです。この日本において会社を永続させていくためにも、働く人が幸せであるような会社で在ることを期待します。

○会社はどう在るべきなのか

会社が存在していくには、存在意義としての社会に対する貢献やSDGs(持続可能な開発目標)の観点だけでなく、「働く人が幸せであるかどうか」という内部の在り方も、無形資産として注目されています。

欧米では無形資産への価値の高まりが優先されるようになり、世界経済の最大トレンドとして注目されるようになってきました。既にISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)として
人的資本の情報開示が求められています。この無形資産には、特許や著作権・商標権、社風、ブランド、商品開発を含めた技術、ノウハウなどがあり、その中に「企業理念」も含まれています。働く人の在り方や社風という目には見えないもののほうが、いわば財務諸表よりも重視される時代に差し掛かっているのです。

株式公開企業であれば、今後の株価を左右する要因となった、ということなのです。私たちTNCでは、株価に重きをおいていませんが(それらは後述します)、それだけ重要視されていることだけ認識してください。そして、人的資源情報の開示(ISO30414)も求められるに従い、自社のあるべき姿をどのように描いているのかということと、従業員さんが「働くこと」をどう捉えているのかということを考える時代になっています。

また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点を筆頭に、会社の在り方が変わってきているのを認識されています。利益だけを追う企業の在り方とは異なり、「働きがいのある会社」ランキング や日本でいちばん大切にしたい会社大賞 など、「利益を確保すること」と「働く人が幸せであること」を両立させている企業を評価する流れが高まっています。

「企業理念」を創る上で、「会社がどう在るべきなのか」ということを考えていないと、その先には進めません。いろいろな角度からみてみましょう。

<TNCでは会社はどう在るべきと考えているか>

私たちTNCでは、経営者として自社を「いい会社」にしたいかどうかを問います。「いい会社」の定義は、大切にしたい五人を幸せにすることです。

一人目は、社員とその家族です。
二人目は、お取引さまとその家族です。
三人目は、地域社会です。
四人目は、お客様です。
五人目は、株主(または経営者)です。

株を公開していない会社では、経営者におきかえてください。この順番も重視していて、株主至上主義ではありませんし、経営者至上主義でもありません。また、従業員さんが「働いて幸せになること」を是とし、そのための施策をとっているかどうかも重視しています。

更に、企業の在り方として、
「しなければならないことは必ず行う」
「してはならないことは絶対にしない」
ということを大原則としています。

京セラ株式会社創業の稲盛和夫氏は成功の方程式として、「人生と仕事の結果=考え方×熱意×能力」
と表しました。この方程式で「いい会社」経営を考えると、熱意も能力も、あるべき姿に対するものであり、「いい会社」へ向かうものでなくてはなりません。つまり、考え方が「いい会社」にしたいと思っているかどうかが最も大事になります。

まず、ここまでの段階で「いい会社」をイメージできていないようであれば、このTNCのサイトを十分に探索してください。そして、「いい会社」の法則のポッドキャストを聞いてみてください。その時に何を思ったのか、どう感じたのか、どうしなくてはならないと思ったのか、何をできないと考えたのか、その時の感情を交え、正直なところを全て記録しておいてください。これは、先々「企業理念」を創る時に必要になります。

少し厳しい表現をすると、このような学習自体を面倒に感じるのであれば、「企業理念」を創ったり、「企業理念」やその解説を見直したりしても、社内に浸透もしなければ、企業風土がよくなることもありません。学ばない経営者の会社で、働く人が幸せになることはないのです。その場合、働いてくれる人の高齢化に伴い、事業継続、経営承継が難しくなることも予測されます。

日々の経営の中で、根本的なところをじっくりと考える時間を取ることは、とても難しいと察します。
次から次へと判断したり、調整しなくてはならなかったりすると、「それどころじゃない」「とりあえず、会社は回っている!」「理念がなくても困らない」と思うことは、もっともだと思います。確かに、存在しているのですから、今は、それはそれで正しいです。たまたま、うまくいくこともあるかもしれませんし、「企業理念」があっても継承がうまくいかなければ無いのと同じなのです。

それでも、「企業理念」が軸となる会社でなければ、永続することは難しいです。従業員さんたちの生活を考えたら、いずれ承継が話題となっても、「その時はその時」とは言えないはずです。そして、忙しい中でも学び・考えるという、この壁を越えない限り、「いい会社」になるための「企業理念」が発動されることはありません。

もう一度繰り返します。適当に「いい会社」になったらいいなぁではダメなのです。とことん「いい会社」にしたい!と思えるかどうかなのです。熱意がゼロでは前に進むことはできません。もちろん、熱意がゼロの人が本サイトを読まれることはないと思います。「いい会社」への想いは、高まったでしょうか。「いい会社」経営をする仲間になってもらえれば幸せです。

<政策が掲げている企業の在り方について>

次に、日本国が掲げている政策として、企業にどのようなことが求められているのかをみてみましょう。

➀「働き方改革」からの企業の在り方

2017年に内閣府が揚げた「働き方改革実行計画」には、「日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である。『働き方』は『暮らし方』そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である」という記載があり、これは働く条件へのアプローチだけではなく、日本の働き方を考え方から変えていく
という宣言です。

では、「働き方を考え方から変えていく」というのは、具体的にどのようなことになるのでしょうか。
昨今のリモートワークの是非から、従業員さんの公平性の問題まで、考えることは多岐に渡ります。そして、考え方から働き方を変える改革に対して企業が果たすべき役割がとても大きいことに気づきます。働く人が考え方を変えたとしても、企業が対応できなければ働き方を変えることはできないのです。

更に、内閣府の資料には、「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である。生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る『成長と分配の好循環』が構築される」とあり、働き方を変えながらも成長拡大路線は継続させています。「働き方改革」の主体を企業だけではなく働く人そのものにも向け、働く人の心身の充実を図ることで生産性を向上させようとしているようですが、少子高齢化に伴う生産人口減少を生産性向上で補えるかどうかという水際にあって、成長拡大が可能なのか、そもそも成長拡大が必要なのかは論じられていません。

「日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方」は、新卒一括採用、終身雇用、年功序列や職能主義、長時間労働の肯定などを指していますが、どの項目も一長一短があるとみています。このTNCの活動の主眼におかれている中小企業、もっというと小規模な会社においては、その分野において強みとなる可能性もあるのです。

また、厚生労働省では、「働き過ぎを防ぐことで、働く方々の健康を守り、多様な『ワーク・ライフ・バランス』の実現」と謳っています。これは働くこと自体を幸せにしていく取組みではなく、ワークとライフを明確に分けて、働く時間は我慢の時間であり、できるだけ短くなるようにして、健康維持とライフに時間を取るように促すものです。

ここで、なぜワークとライフを分けるのでしょうか。働いている時間は、人生の中で多くの時間を割くことです。この時間が幸せでないというのは、かなり辛いことになるのではないでしょうか。働く時間の削減と、働く人の幸せはイコールの関係ではありません。定時退社により時間を持て余して困っている従業員、労働時間の減少により残業手当も減少することで生活レベルが低下してしまった従業員、体裁ばかり整えられても実際の仕事が減少するわけではなく、結局「ふろしき残業」と呼ばれる自宅での仕事をせざるを得ない従業員たちの存在も報道されています。

「働き方改革」により、雇用条件や給与の高さ、福利厚生などを見直しした会社も多いのも事実です。
これらの条件の見直しは、F.ハーツバーグが唱えたモチベーション理論における衛生要因になります。低下した場合には不満となって現れてきますが、改善したとしても一時的な好感だけに留まるという特徴でもあります。モチベーション理論には、もう一つの動機づけ要因があり、これは自己実現欲求の充足に働きかけるものです。
達成感や自分が承認されていると感じることや、仕事そのものになります。「心理的安全性」を確保するという施策は、この動機づけ要因の改善にあたります。働く人の気持ちに対する環境整備には、企業風土、人間関係、人事評価、自分の存在意義が感じられるかどうか、居場所があるかどうかなども加えることができますし、今後の人的資源の情報に影響が出てくるでしょう。衛生要因はある程度の基準を満たすことは大切ですが、動機づけ要因を企業に合うように工夫していくことも求められているのです。

この「働き方改革」を考えた時、会社という存在はどう在るべきでしょうか。そして、自社はどう在るべきでしょうか。「企業理念」の作成に必要ですから、思ったままを書き留めておいてください。

➁政府の論じる「働き方の未来」からの会社の在り方

経産省の2017年の「雇⽤関係によらない働き⽅」に関する研究会 」によれば、第四次産業⾰命の進展によって、仕事は従来の「企業単位」から「プロジェクト単位」に変化していく、とあります。

「企業の国際競争⼒を維持・強化するとともに、個⼈も⾃⾝の能⼒・適性や意思に沿った形で働くために、⼈材政策、労働市場や雇⽤制度の変⾰が不可⽋」とされています。更に、厚生労働省の「働き⽅の未来2035 」(2016年)において、2035年までに起きる5つの変化が挙げられています。

1.⾃⽴した個⼈が⾃律的に多様なスタイルで「働く」ことが求められる。
2.企業は、働く⼈にどれだけのチャンスや⾃⼰実現の場を与えるかが評価されるようになる。
3.働いた「時間」だけで報酬を決めるのではない、成果による評価が⼀段と重要になる。
4.⼈は、⼀つの企業に「就社」するという意識は希薄になる。兼業や副業、あるいは複業は当たり前のこととなる。多くの⼈が、複数の仕事をこなし、それによって収⼊を形成する。
5.⼀つの職業に「就職」をしても、「転職」は柔軟に⾏える社会になっている必要がある。これは大企業や優れた能力のある人に対して起きる変化だと予想します。生産人口の減少と共に、働いてくれる人の確保がより困難になることが予想されていく中、待遇とスキルとが呼応関係による働き方と、家族的な共同体の一員としての働き方に二分されていくようにも思えます。待遇とスキルの関係は、その人にいて欲しいのではなく、欲しいのはその人の持つスキルになります。
その役割を担ってくれるのであれば、あなたでなくてもいい、ということであり、その役割に応じた待遇をするので、少しでも不足していれば解雇もあるし、減俸も起こり得る、ということです。別の見方をすれば、多様な働き方を認めていく待遇により成り立つ考え方ともいえます。

これに対して、家族的な共同体としての企業の在り方は、そこに集ってくれた仲間として、どんな人でも大切にし、お互いに価値ある人として助け合って成り立たせていくことになります。障がい者も健常者もなく、役割に応じてその人の居場所が形成されていきます。このような在り方が2035年までに無くなるとは考えられません。

働く人にとっても、どちらの在り方を望むのかが別れますので、在り方の是非ではなく、合っている方で働くことができることが大切になります。私たちTNCで支援の対象としている中小企業においては、生産人口の減少とともに様々な能力の人を活用していくことが必要となるので、共同体としての在り方の方が企業の存続においても有効となると主張しています。 

更に、厚生労働省の「働き⽅の未来2035 」(2016年)において、次のような記載があります。

「2035年には、『働く』という活動が、単にお金を得るためではなく、社会への貢献や、周りの人との助け合いや地域との共生、自己の充実感など、多様な目的をもって行動することも包摂する社会になっている。誰かを働かせる、誰かに働かされるという関係ではなく、共に支え合い、それぞれが自分の得意なことを発揮でき、生き生きとした活動ができる、どんな人でも活躍の場がある社会を創っていくことになる。自立した個人が自律的に多様なスタイルで『働く』ことが求められる。つまり、『働く』ことの定義、意義が大きく変わる。」

この記載は、前述した二分されていく企業の在り方の、共同体としての企業の在り方ではないでしょうか。経済産業省が挙げる「2035年までに起きる5つの変化」とは一致していません。もっと言うと、下記に参考までに記載した、同資料の3.6項の「働き方の変化がコミュニティのあり方を変える」においては、企業の共同体としての在り方は否定されていて、識者の方々の出した結論も二分されています。<参考>厚生労働省 「働き⽅の未来2035」 3.6 働き方の変化がコミュニティのあり方を変える「企業が担ってきたコミュニティ、家族のような役割は、とくに伝統的な大企業ではこの色彩が濃厚だった」

という記載があり、大企業が家族のような役割をしているのは、「伝統的な」とあるように、その企業が創業期の時代背景によるものと考えられます。現在では中小企業、その中でも社員数が少ない企業の方が、家族のような役割を担ってきているのではないでしょうか。
そして、「働くこと」が活動している時間の中の大半を占め、生活領域としてあるならば、代替するコミュニティの発生を期待するよりは、企業の在り方を見直した方がより現実的ともいえます。自然災害、社会生活の困難性からも、会社を拠り所にするというは、生活基盤を支える上で、金銭とはまた違う大切さがあるのではないでしょうか。

政府は共同体としての企業の在り方を否定しています。ただ、松下幸之助翁と並ぶ名経営者とされる稲盛和夫氏は自身のオフィシャルサイトにおいて「大家族主義で経営する」と述べています。京セラ株式会社は大企業になってしまいましたが、少なくとも根底には共同体としての在り方があるようです。

さて、あなたはどのような在り方の会社にしたいですか?
稲盛和夫氏が大家族主義だからと言って、では自分も…と言う考え方では、想いが浅いです。従業員さんを家族にするということは、どういうことなのか、一人ひとりの従業員さんの顔やそのご家族を思い浮かべながら考えてみてください。

いや、仕事は仕事だ。

給料を払っている以上、それだけの仕事をするのが当然であり、それ以上の気配りはするつもりはない、という考え方もあると思います。経済産業省が挙げる雇用関係による働き方ですね。「いい会社」経営とは対極にあります。

<幸せに働くことができる会社の在り方>

私たちTNCは、「いい会社」を増やしていくことにコミットしています。働く人が幸せに働くことができる会社を増やすことです。働く人には、障がい者も高齢者も女性も持病がある方もみんな含んでいます。障がい者を含めた「皆働社会」を目指している日本理化学工業株式会社の故・大山泰弘会長によれば、人が幸せになるには

➀人に愛されること
➁人にほめられること
➂人の役に立つこと
➃人から必要とされること、という4つの因子があるといいます。

このうち、➁から➃は働くことによって得られるとしていましたが、息子さんである現社長は➀の「人に愛されること」でさえ、一所懸命に働くことによって得られると考えられていて、この4つの因子を「働く幸せの像」の碑文としています。

一緒に働いてくれる従業員さんが幸せに働ける会社にしたいと思いませんか?幸せに働くということも、じっくり考えてみてください。従業員さんが「幸せに働くこと」というのに、給与が高い、仕事が楽、勝手きままにできる、と考えるようでしたら、もう一度前述した「人が幸せになるには」の➀から➃を見て、一つひとつについて考えてみてください。自社で働いてくれてありがとう、と思えるのか、交換できる部品や経費として従業員さんらを考えるのか、という違いが「幸せに働くこと」にも影響してきます。

<会社の在り方は、本当に欧米型でいいのか>

自社で働いてありがとうと思える従業員さんと、どう向き合っていますか。職能主義と職務主義という言葉は聞いたことがありますでしょうか。欧米の企業のほとんどは、職務主義をとっています。「ジョブ型雇用」も同じことを指しています。職務主義というのは、成果主義の基になる考え方で、仕事の内容が定義され、それに対する成果も明確になっていて、その仕事に対応した人を採用して従事してもらう方法です。会社の方針が変わったりしてその仕事の必要性がなくなれば、いずれ解雇となります。解雇と言うと日本ではよいイメージはないですが、欧米では普通のことのようです。そして、その仕事を担う人に、年齢や勤続年数や学歴などは考慮しません。経済産業省が論じる2035年の在り方のような状態です。

それに対して、日本は職能主義であり、能力は会社の中の研修で身につけていき、人に与えた役割から昇給や賃金が決められていきます。年功序列は、この考え方からきているものです。現在では、年功序列は「悪しきもの」とされ、利益確保のためにはもはや存続不可能な制度とも言われ、成果主義への移行と同時に、会社の在り方から排除される傾向にあります。

いまや「働かないオジサン・オバサン問題」として取沙汰されていることもあります。年功序列だと上が詰まってしまうと若手の成長を妨げてしまったり、能力の高い若手を活用できなかったりという弊害もあります。けれども、能力いかんとしても、人として若年者から軽んじられるというのは、我が身に置き換えた時に、・・・イヤですよね。

仕組みとして、年功序列を基本としながらも、若手を活かせるようにしていけばいいのです。職能主義は、特に日本において否定されるべきものではありません。職務主義にも職能主義にも一長一短があり、どちらを選択するのが正解か、という問題ではないのです。

快楽主義と幸福主義という区別もあいまいです。これは、幸せを実現するために重要な意味を持つ区分です。快楽主義というのは、自己の心地よさを求めた動機づけによるものです。幸福主義というのは、自分自身の存在を最大限に生かすことを目指した動機づけを指します。若者の「今を大切にする」という思考は、快楽主義のようでありながら幸福主義といえるようで、自分を活かして働きたいということです。Z世代の働き方として取り上げられる、世の中のお役に立ちたいとする働き方です。職務主義に適しているように思えますが、即戦力として実務に対応するような人はそう多くはありません。

新卒一括採用で、社内でじっくり育てていくのが日本のやり方といってもよいでしょう。職務主義にするならば、新卒一括採用から無くしていかなくてはなりませんが、それもまた大変なことです。働く会社を決める「就活」においては、できれば一つの会社で働き続けたいと思う学生の方が多いのではないでしょうか。転勤転居のやむを得ぬ事情や風土に合わないということで1年以内に早期退職する人は
11.6%ほどいるようです。ここでは自分は活かせないと思ったのでしょうか。失望するのに1年以内というのは、どういうことなのでしょう。
必要なスキルを身に着けて、次の会社へステップアップするのも、まだまだ難しいのが現状です。
転職しても60%は転職前よりもよくない待遇になるとも言われています。転職市場が活況を帯び、そして転職する理由も様々となる中で、スキル向上や経験値が安易に転売される世の中になっていくことを助長しているのは、実は企業側に責任の一端があります。

ずっと同じ会社にいようと思っても、自分の存在を最大限に活かした結果である50歳以上の社員の扱われ方をみると、役職定年後の在り方や定年再雇用の在り方など、若者の描く将来に向けた自分の姿として理想的であるとはいえません。実に「働かないオジサン・オバサン」によるモチベーションの低下は恐ろしいものがあります。何よりも、その方々も好きでそうなったわけではありません。若い頃、先々のことを楽しみにして低賃金で働き、そういう年齢になった時には世の中が変わっていたのです。

賃金を減らされ役職から退き「お荷物」のように扱われる存在であることも辛いことなのではないでしょうか。仕事の中身も責任も変わらないのに賃金だけ減らされるという現状に対する諦観の態度ともいえます。高年齢層の働き方は、若者に自分自身の存在を最大限に活かしていくことの意義を揺るがせるだけでなく、未来の自分の姿を目の当たりにすれば、何よりも、仕事への誇りの醸成や先人へのリスペクトも低下します。これは、生産性にも直結してくる問題ともいえます。

こういう会社にしたいのでしょうか。

世間の在り方と比較するのではなく、一緒に働いている人が幸せであるために、どう在るべきなのかを考えてみてください。年功序列で役職定年や賃金カットが無い時代では、年齢に応じた役割を果たし、若年層からのリスペクトも得られていました。ときおり、その待遇にあぐらをかいて、いばり散らしている人もいますが、そういう人に対して厳しくしていくべきであり、働く誇りや若年者からのリスペクトを奪うような在り方が正しいとは思えません。
そして、日本の働き方は、欧米の職務主義という企業の在り方と比較して否定されるものではなく、職務主義ではない日本だからこそ若者に刹那的ではない未来を見せることができるという、肯定的な側面があるといえるのではないでしょうか。逆に、現在の利益重視の考え方から、役職定年や定年再雇用における賃金削減という施策を行ったことで、働き方に悪影響を及ぼしてしまった結果とも考えられます。

「いい会社」として最もよく知られている伊那食品工業株式会社では、年功序列を当然とし、定年再雇用に対しても賃金を減らしたりせず、働く人の尊厳を維持しています。これは、当事者だけではなく、現役世代が働き続けることへの希望にもつながっている事例といえるのではないでしょうか。

日本と欧米を比較して、どちらが正しいというつもりはありません。それぞれの文化、国柄に合った選択をしていくことが大切であって、欧米の考え方を輸入し、それを「正しい在り方」として鵜呑みにしてしまうことに対して警鐘を鳴らします。鵜呑みを強要する知識人、特にコンサルタントにも注意です。現在、日本が低迷しているのも、欧米が強いのも、日本的経営に問題があるのではなく、その手法の活かし方が問題なのではないでしょうか。大事なのは、自社の在るべき姿を「自分で」考えることなのです。

ここまで、いろいろな角度から、会社の在るべき姿を考えてきました。「いい会社」にしたいという想いが「本気」になってきましたでしょうか。さて、いよいよ企業理念について説明したいと思います。まずは、企業理念があると、どのようなメリットがあるのかを挙げてみたいと思います。

○企業理念の必要性と役割

「何のために「企業理念」があるのか」ということが理解できると、全ての実行する内容が「企業理念」と紐づいている状態になってきます。そして「何をすることで社会に貢献していくのか」という想いである「企業理念」と、「大切にしている従業員」の間に相乗効果が生まれます。

<存在意義としての役割>

「企業理念」は企業の哲学といわれ、創業者の想いや考え方や存在意義を示しています。この企業が何のために存在するのか、何を大切にしている会社なのか、どのような世の中にしていきたいのか、というようなことが掲げられていることが多いです。究極の企業理念は、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫氏が説く

「従業員の物心両面の幸せを追求すると同時に人類、社会の発展に寄与すること」

になるのでしょうか。これはどの会社でも掲げることのできる共通の存在意義となり得るものです。そして、人が働くことは自身や家族だけではなく、社会を幸せにすることでもあるので、働く人を幸せにすることを前提とし、それにより一層の社会への貢献を高め、自社の存在をゆるぎないものにして永続していくために、存在意義として自社のあるべき姿を明文化したものが「企業理念」なのです。

働く人は、社会に対する役割としての会社の存在意義に自分の価値観を共感させることで、社内における自分の存在意義を認識し、そこから「何のために働くのか」ということに意味付けをし、働くことを幸せと感じる、という好循環を形成していくことが大切になります。そして、働いている時間も幸せなことであるために、企業も働く人もその状態を目指して日々模索していく活動をしてこそ、社会の公器としての会社の在り方なのではないでしょうか。
 
存在意義としてどのような会社にも共通するものがあるとしても、自社固有の存在意義がなければ「あってもなくてもいい会社」となってしまい、社会に存続することはできそうにありません。「企業理」念で語られるべき存在意義は、共通する存在意義と固有の存在意義の両方が必要となりますが、それは「企業理念」の言葉の中ではなく、解説で述べても構いません。実際、共通する存在意義は明文化していないことも多いですが、これからの社会は働くことが幸せであることが重視されていくので、

「掲げていない=考慮していない」

とならないためにも共通の存在意義も明文化し、せめて解説や注釈の中で述べておく必要が強まると考えられます。

更に、創業の志を大切にすることは企業継続、永続する上でとても重要なポイントになります。現在、自社があるのも、創業者の想いが続いていたからであり、従い、社会から価値を認められて存在を許されてきたのです。創業の志の解釈は少しずつ変えて、その時代に適したものとすることもありますが、創業の志を企業の核として重視することと、固執することの違いを認識することもまた重要になります。

例えば、虎屋の羊羹は、創業時から変わらないもののように捉えられますが、実は時代に即して変化させているからこそ、いつの時代も「変わらぬ美味しさ」であることができるのです。これがもし、創業時の「配合と製法にこだわり」としていたならば、現在でも存続できたかどうかわかりません。

<存在意義としての企業理念をもっと言うと>

会社の在り方には、「社会に貢献することで得た利益は、そこで働く人を幸せにするためにある」と「社会に貢献することを目的として共感する人が集っている」という様があります。自社独自の存在意義は「〇〇で貢献する」というように社会に貢献する方法を謳ったものが多いので、共感して集うという在り方ならば「〇〇に貢献する」こと自体が目的となりますが、働く人を幸せにするためという在り方ならば、「〇〇で貢献する」という文章は利益を得る手段を明文化したものとなります。同じ文章が掲げられていたとしても、会社の考え方によって捉え方が変わるのです。

<全体最適としての役割>

働く人を大切にする施策を検討した場合、福利厚生の充実や、給与・賞与を含めた待遇の改善などが真っ先に思いつきます。これらの施策は、社員さんの待遇を公正になるべく考慮されたり、会社の利益や活動に貢献した人に対して相応の報いがあったりと考えたものであっても、実は、部分最適にしかなりません。

そこで働く人の全てが幸せになる取組みを目指してもそうはならないですし、いったん得られた幸せが長続きすることもありません。更に言えば、一体感の醸成や部門の壁を破壊するべくいろいろな施策を試みても、部分最適にとどまることが大半となります。企業の中で働く人の幸せのために、公正、平等であろうとするのはとても難しいことであり、何かの施策を導入したからと簡単に実現できることではないのです。それほどに「壁」は分厚いことを知る必要があります。

私が長年働いてきた中で、さまざまな取組みにトライし、そして全体最適を求める方法としてたどり着いた結論が、「企業理念」を軸とする企業の在り方なのです。風土をよくしようとしたり、生産性の向上を狙ったり、発言を促すようにしたりという様々な施策は、導入した部門はよくなっても、それを広げていくにはまた別の施策が必要となります。また、導入した部門はよくなっても、そのひずみが他部門に出る場合もあり、部分最適にしかならないことが多いのです。

なぜ、部分最適になってしまうのか、会社全体がよくなるにはどうすればよいのかを追求した結果、
「企業理念」から端を発し、広い視野と長い時間軸でものごとをみること、働く人たちが見ている
方向や想いを揃えることで全体最適に近づけることがわかってきました。

つまり、「企業理念」を「揺るがない、根底となるもの」として、「企業理念」から端を発して施策を検討し実行していくことで、初めて働く人の幸せを醸成していくことが可能になるのです。

また、「企業理念」を土台として持たないと、特に経営者の交代、事業継承において会社自体が大きくブレてしまうことが起こります。「企業理念」という想いの共有があればこそ、その上での施策が意味をもつのであり、その施策から働く人が何を感じるのかが企業風土を形成していくのです。「企業理念」により「働く人が大切にされている」という全員の認識と自覚から始まり、お互いを信頼しあう風土ができ、全体最適へと発展し、独自の存在価値に発展するという、最も根本のところを担う重要な役割をもっているのです。

<判断軸としての役割>

「企業理念」は社内の一体感の醸成だけではなく、対外的にも注目されるものです。取引にあたり、まっとうな会社であるのかどうか、支払い能力はあるかなどの信用調査の一つの項目ですが、最近では「無形資産」としても注目されています。会社が社会に存続を許されるには、世の中に必要となる製品やサービスを提供していることは前提となりますが、それだけあればよいというものではありません。極論すれば、公害を起こしてまで製造された製品は、世の中に支持されることはありません。発覚した時点で取返しのつかない事態になります。

数値の改ざんや虚偽の報告、不正などの不祥事に対する世の中の反応をみていても、それは強く感じられます。会社の規模が小さいほど、「やむを得ず」という事態が起きる確率は高くなります。その時にNOと言えるかどうか、が問われるのです。そこでYESと言わなくては存続できない、ということもありますが、そこでYESと言ったことが後々大変なことになり、廃業するしかない事態も起こり得るのです。また、無形資産の一つとしてある、人的資本についても、厳しい目が向けられるようになってきています。従業員が不正を行うだけでなく、自殺したり、離職率が高かったりしても、信用リスクとなります。更に言えば、商品やサービスを購入する時に、信用に値しない会社が選択されることは減っていくでしょう。物価の高騰に伴い、価格を安価にすることで購入する客層も存在していますが、反対にSDGs(持続可能な開発目標)の追求と共に会社の在り方にも注目し、その在り方が正しいと思わない会社は選択しない客層もあるのです。

会社の利益として考えた場合、どちらの客層と取引したいでしょうか。

もっといえば、株式投資を始め、製品やサービス購入にあたっても、その判断基準には財務指標だけでなく「企業理念」が含められているのです。その企業の社会的役割である存在意義を前面に出して述べる必要が増しているのです。お気づきでしたか?新幹線の電光掲示板を見て下さい。企業広告においても「企業理念」を前面にだしていて、驚くばかりです。正直なところ、ここまで来たか!と思うほどです。

ブランディングにおいても、「企業理念」から構築されています。パーパスブランディングという言葉ならご存知でしょうか。そして、就職活動においても「企業理念」を重視する傾向が近年高まっていて、面接時には理念に対する質疑応答があるのは当たり前になり、学生に問われる選択理由の返答にも「企業理念」に対する自分の想いが語られる時代になっています。すべての企業活動における判断基準になっていると言っても過言ではありません。

社内的には、経営においてはもちろんのこと、従業員さんによる日々の判断においても「企業理念」は判断軸であり、AかBかという選択の基準になります。経営判断だけではなく、商品開発、顧客対応、品質管理など様々な活動における判断基準となります。現状の判断だけでなく、新規事業への進出の方向性を決断したり、新しい取引先を選択したりと判断基準でもあります。
問題が起きた時に、その問題をどのように捉えるのかということから、解決の方向性までも「企業理念」から決まるのです。そして、これらの判断が積み上げられて、社風を醸成していくのです。

「世の中ではかろうじて許されるかもしれないけど、うちではやらないよね」とか、「リスクがあるのはわかるけど、うちの企業理念からいうと、ここはトライしてみてもいいんじゃない」とか、このような会話が多発してきたら、「企業理念」が判断基準として機能している証拠です。

働く上で物事の判断基準が明確にあることは、判断ミスの軽減だけでなく、自社の特色を現わすことにもつながります。都度、迷うことへのストレスを減らすことは、働く上で重要になります。毎回、指示を出さなければ判断できない、よかれと思って選択しても上司と意見が合わずに説教される、などということは、ストレスだけでなく、生産性の低下に直結します。

更に、「企業理念」という軸に従って、みんなが同じように判断できるということは、会社への誇りの醸成や離職率の低下など、見えない人的資源の向上をもたらします。「企業理念」が社外の方々と従業員さんをつないでいるからこそ、自分の役割を社外的な視野で見ることができるようになり、働く幸せも、働くことの誇りも、会社に対する好意も生まれるのです。

<経営計画の土台となる役割>

企業活動において、何らかの経営計画、経営目標を立てていますね。計画のない経営は、あり得ません。行き当たりばったりで経営していては、経営者の家族も、従業員さんもその家族も、安心して生活できないですから。もっと言えば、計画を立てない経営は、行先が不明なままの旅と同じです。それを楽しむのは経営者としてはあり得ません。

旅であれば、最悪、自分一人が野垂れ死すればいいですが、たとえ会社に自分しかいないとしても、お取引さまを始め、経営には関わる人が多いので勝手気ままというわけにはいきません。経営においての行先は、あるべき姿になります。そして、「企業理念」は、その羅針盤です。

時間軸を長くとり、広い範囲で経営を照らします。

「企業理念」は伸縮自在なので、あるべき姿に至るまでの地図として、時間軸を短くした時の方向や業界や世の中のことから自社を見ることも可能になります。だからこそ、経営計画の土台としての役割が果たせるのです。そして、「いい会社」の計画は、目的・目標が数字としても明確になっています。数字から積上げで考えるのではなく、「企業理念」から考えることで、シンプルで明確な計画が現れるのです。前年度数字からの計画とは全く異なり、あるべき姿に向けての階段の一つとして、一貫して説明することができます。「企業理念」は一所懸命に掲げていても、経営計画が前年度から算出したようなものであったら、その企業理念の意味はなくなります。

<経営側と社員側を対等な関係にするための役割>

会社の存在意義には、社会に必要なものを提供するという役目、国を支えるという役目、従業員さんに安心安全な場を提供する役目、それらを成り立たせるための経営数字の確保、という仕組み的なものに加え、企業倫理の元ともなる「企業はどう在るべきであるか」という土台となる考え方が必要となります。

更に、「企業理念」という大義の元に、経営者も従業員さんも共に協力しあい、共生していく関係であることが重要になります。「企業理念」のもとに集うということは、経営者と雇用される人の関係が「働かせてやってる」「働かせてもらっている」という関係性から脱却し、お互いが必要な存在となっていくことが求められるのです。

どんなに素晴らしい「企業理念」を掲げても、社員さんがいなければ実現することはできません。創業の想いを継承して、率いていく人がいなければ、「企業理念」を活かすことはできません。お互いになくてはならない存在なのです。そして、お互いを「なくてはならない人」として位置づけることで、意見を出し合うことができるようになります。

同じ方向を向いて、協力し合う関係において意見が出るのであり、立場に対する忖度も不要になりますし、若年だからと軽んじることもありません。「企業理念」は心理的安全性の確保にもつながり、上司だけでなく、経営者に対しても必要に応じて自分の意見を述べることを可能にします。更に、意見を言われると個人的に批判されたと思う人もいますが、「企業理念」に対しての意見とすることで、意見として聞くことができるようになります。そういう発言ができること自体が自分の居場所を認識することであり、自己重要感の醸成にもつながり、「働くことの幸せ」にも拡がっていくのです。

<多様性を認める役割>

幸せという「善」を求める気持ちは、どんな人にも共通するものであり、それは働くことにおいても適用されるべきです。仕事の成果のみが数字として「見えるもの」となり、それを担っている働く人の存在が希薄であっては働くことが幸せとは成り得ません。そして、万能な人はいないのだから、お互いに足りない部分を補いあうために多様であることが必要となるのです。

「企業理念」のもとに集う人たちであれば多様である可能性はありますが、「うまくやっていけそう」というようなメンバーで構成してしまっては、得意なことと不得意なことが似てしまう可能性があります。「企業理念」という一点において同じであっても、その他の部分は違うからこそ、いろいろな意見が出るし、補い合うこともできるのです。また、多様さを認め合うことは、お互いの存在を認め合うことから始まります。得意・不得意だけでなく、性別、国別、地域別など様々な違いにより、同じ事柄に対する対応も違ってきます。その時に目から鱗が落ちるような気づきがあるかもしれませんし、こんなにも似ているんだと驚くこともありそうです。

逆説的には、企業として一つの目的に向かうためには、多様な存在を認め合うことだけではまとまりがつかなくなってしまいます。そこで、多様でありながら同質的であるという対極にあるものを一致させるために、

「何のためにこの会社はあるのか」

という存在理由を明確にする「企業理念」が必要となるのです。「企業理念」は金太郎飴のような社員を作ると思い込んでいる経営者の方もいるようですが、それは違います。前述した「企業理念」を軸にして、同じように判断できるというのは、金太郎飴の人ができるのではありません。考え方の方向性のことなので、「企業理念」があれば反対に多様性は増すのです。男性が判断しても、女性が判断しても同じになります。日本人が判断しても、外国の人が判断しても、同じになるのです。主体的に、いいことはいい、ダメなことはダメと判断できるようになるのです。

グローバル化だけでなく、これからの生産人口の低下と共に、他国の方と働くこともでてくるでしょう。「企業理念」は、数値化できる価値ではありませんが、文化や考え方が異なる人たちの間でも、この会社として何を大切にしていて、そこで働く人はどのようなことを大切にしなくてはならないのか、という方向性を示す大枠となります。

もっと別の見方をすれば、どう考えても考え方や価値観、成し遂げたいことが合わない場合には、
お引き取り願うという選択も「お互いのため」として許容することができるのです。

<企業理念のその他たくさんのメリット>

私たちTNCでは、次のようなことをメリットとしてお伝えしておきます。

□さまざまな業務に直接影響するので、浸透させることで的確な判断をすることもできるようになり、自律した社員を育むことができます。これは「仕事を任せる」ことにもつながっていくので、どんどん組織が活性化していきます。
□企業イメージ向上にもつながり、売上にも影響を与えるだけでなく、競争力の源泉にもなります。ブランドの源泉として必要になります。
□「してはいけないことは、絶対にしない。しなければいけないことは必ず行う」という規律が醸成されるので、企業倫理が向上します。
□意見を言う時の基準になるので、感情ではない意見交換ができるようになります。
□「企業理念」を軸にすることで不要な仕事が見えてきます。
ブルジットジョブが排除されていくことで、業務効率化にもつながります。  それにより得られた時間を使用して、イノベーションや新しい仕事を考えることができるようになり、永続する力が得られます。
□従業員さんは、「働くこと」について考えるようになり、生きがいにつながることもあり、より善い人生への足掛かりになります。
□何のために自分の役割があるのかを認識することで、仕事に対する誇りが醸成されます。製品やサービスに対する誇りは、会社に対する誇りへと発展し、それは働く喜びにつながり、幸せに働くことが実現されていきます。
□誰もが必要な人であるという居場所が醸成され、「社風」がいい方向に変わっていくことで、メンタル不全を予防することにつながります。
□若者は、会社の規模や、待遇(給与の多さ、福利厚生など)よりも、世の中への貢献度合いや企業の価値観に心を動かされて就職する流れもあり、採用に関して楽になる可能性が増えます。

<事例>
「いい会社」の代表格ともいえる会社に伊那食品工業株式会社(長野県)があります。この会社の社是は「いい会社をつくりましょう。たくましくそしてやさしく」です。徹底して従業員さんを幸せにすることに取り組んでいます。単身赴任や転勤などの苦痛を避けるために立地は動かしません。転勤の素となる支店なども持ちません。

寒天を製造している会社ですが、空前の寒天ブームの時にも従業員さんの労働時間が伸びるのは良くないと経営陣は増産を拒否しています。これには余談があって、寒天が足りなくてお薬を飲むのに苦労している患者さんの存在を知り、従業員さんの方から増産要求が出て、経営陣も応じるのですが、地域の人から従業員さんたちが疲れているように見えると指摘され、即増産を取りやめた、というエピソードがあります。

また、給与も定年まで昇給を続け、古参社員の尊厳を守っています。定年退職後も働ける体制も取っていて、会社が大好きな人たちが現役世代を下支えしています。そして、何よりも社員を幸せにすることで、増収増益を図っているのです。働く人を幸せにするためには、利益が必要なのでそのための経営という両輪がバランスして回っています。

そして、従業員さんを幸せにすることを念頭にして様々な施策を実行することで、経営の流行に翻弄されることもなく、〇〇ショックなどにも大きく影響されることもなく、安定した「年輪経営」を貫いています。余談ですが、現在4代目の経営者ですが、1代目と3代目、2代目と4代目が同族という、興味深い会社でもあります。

伊那食品工業株式会社の人を大切にする経営は、人を代替可能なモノとして位置づけ「利益のみを追い求める資本主義」という支配的な価値観に対し、「人を大切にすることでも利益を確保する資本主義」として経営が成り立つことを示しています。利益偏重型の資本主義に準じた大企業の在り方として、多くは職務主義・成果主義により働く人が自律して流動的になっていくと推定した場合、伊那食品工業の在り方は家族主義であり、マイナーな在り方になるのかもしれません。そして、人を大切にする経営が利益偏重型の在り方と同時に実現するとは考えられないので、人を大切にする働き方が注目されるほど、世の中は二分されていくようにも思えます。

中小企業として、利益変調型の資本主義の在り方を選択していくことも可能ですが、先々の採用の難易度を考えると、人を大切にする経営を考えていく方が現実的ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

ここまでをざっとまとめてみると、「企業理念」はその企業の存在意義であり、働く人が集うための旗印であり、企業倫理を守る砦であり、経営の方向性を示すものと言えます。働く人が自己を活かすための土台であり、お互いを尊重し、役割を認識する元であり、企業の文化・風土を造る元になるものでもあります。

企業が風土という特色を示すのは、利益を求めるための機能体としての存在だけではなく、従業員さんたちの居場所としての存在も兼ねているという見方もできます。そして、人の考え方は多様であり、それが各々のかけがえのない特徴にもなっているのですが、それを一つの会社としてまとめるためには、方向性を示す「企業理念」が必要になります。「企業理念」は数値化できる価値ではありませんが、無形資産としても絶対に必要なものといえるのです。

ここまで、「企業理念」のメリットを説明してきましたが、「いい会社」にするためには「企業理念」が絶対に必要だ、ということが理解できましたでしょうか。「あればいい」という程度のものでは意味がないことも認識できましたでしょうか。必要なのは、経営者の考え方の方向性と熱量であって、「企業理念」を利用して、従業員の士気を揚げることではないことを改めて強く認識してください。

それでは、いよいよ「企業理念」をつくっていきましょう。

○「企業理念」を創る

「企業理念」を作りたいと思うのは、現在、「企業理念」が無いか、見直したい、ということですね。

□自社に「企業理念」はあるものの、形だけのものになっていたり、浸透していなかったり、もっというと「壁に貼るだけ」になってしまった「企業理念」を、もう一度なんとかしたい。
□1度は「企業理念」をつくってみて、浸透させてみたものの、なんだかしっくりこない。この先、「企業理念」を軸にして、自分たちが描いている企業文化ができていくように思えない。
□後継者を育てたいが、会社の考え方をどのように伝えたらいいのか、わからない。または、創業の想いを「企業理念」として残したいが、どうしていいのかわからない。
□「企業理念」がちゃんとあれば、「いい会社」を目指せるような気がする。
□人的資源の情報開示が求められているので、まずは「企業理念」をきちんとしたい。
□現在の社風を改善したい。それにはまず「企業理念」からだと考えている。
□パーパスをつくらないと取引先に選定してもらえないのではないかと危惧している。
□求人で応募がないのは、「企業理念」が響かないからだと従業員から指摘されたのでつくりなおしたい。

というところでしょうか。

また、下記のような疑問もあるのではないでしょうか。
□「企業理念」があれば会社が一丸となると聞いたが本当なのだろうか。
□「企業理念」やパーパスをつくったから利益が増大するなんてことがあるのだろうか。
□「企業理念」は、ウェルビーイングと関係あるのだろうか。
□「企業理念」と継承の関係が知りたい。何か関係があるのだろうか。
□海外展開する時に、「企業理念」はなくてはならないのであろうか。
□フィロソフィで再建された企業のように、当社もフィロソフィをつくれば持ち直すのだろうか。
□ミッション・ビジョン・バリューがないとかっこ悪いような風潮を感じるが、やはりあった方がいいのだろうか。

いろいろな悩みや疑問があると思います。

もっと深刻にいよいよ少子高齢化の影響が出はじめる
   ↓
新規採用が困難になる
   ↓
高齢者の雇用継続や採用も必然となる
   ↓
様々な仕組みの見直しが必要になる
   ↓
会社の「あるべき姿」を明確にすることが必須となる 
   ↓
「企業理念」の見直しが必要になる

という図式を辿った方もいらっしゃると思います。読み進めるごとに、悩みや疑問が溶けていくと思いますので、ゆったり進めてください。

<「企業理念」を創る>

「企業理念」を作りたいとした時、流行りのパーパスを作りたいのでしょうか。それともミッション・ビジョン・バリューの3点セットでしょうか。それともフィロソフィでしょうか。いやいや経営理念だよ、と言う方。どの言葉の理念を作りたいという方でも、これからご紹介する方法は使えます。理由は、どれも「存在意義」であり、なぜこの会社があるのか、という事から始まっているからです。

そして、その根底にあるのは、創業理念・創業の志・創業者の想い・伝承されてきた家訓になります。
創業者であれば、なぜこの会社を立ち上げようと思ったのか、その時点のあれこれ考えたことに立ち返ってみてください。継承した会社であれば、創業理念をもう一度肚落ちさせてください。もし創業理念がわからなくなっているようであれば、なんとしても見つけてください。文書としてみつからなければ、創業者一族からのインタビューなどによって、その志を掴んでください。これが最も大事なことになります。

今、会社があるのは、何の役に立っているからなのでしょうか。どう在りたいと想い、どうなっているのでしょうか。それは、あるべき姿と一致しているのでしょうか。過去があって、今があって、未来があるのです。これまでを振り返り、あるべき姿を確定させてください。

継承する場合に絶対にやってはならないのは、過去の否定です。なぜ今会社が存在するのか、よくよく考えてください。時流に合っているかどうかは関係ありません。注目すべきは、過去への感謝と、自社の強みです。変えてはならないところはどこか、ということです。

会社は連綿と続いているということは、創業時とは事業内容に違いを生じていたとしても、必ず強みがあります。もしかしたら、在るべき姿は見えなくなっているかもしれません。だとしたら、こんなチャンスはないですね!創業の原点から、社史をたどり、今を見つめ、未来を想定していくのです。

変えてはならないものは何か。
変えていくべきことは何か。

ここに、たっぷりと時間をかけて考えください。前述したように、ここをいい加減にしてはなりません。よくわからなくなってきてしまうこともありますし、面倒になってしまうこともあります。迷ってしまうこともあるでしょう。それでも、考えた分だけ会社は強くなるのです。リニューアルにするにしろ、創業の原点に戻るにしろ、全く新しい「企業理念」に創り変えるにしろ、創業時点から考えることが肝要です。

<違和感をみつめる>

現在の「企業理念」や組織風土について、どういうところに違和感があるのでしょうか。もっとこうなったらいい、と思うところはどこでしょうか。多くは「人」に関するところになりますが、もし「人」が代われば良くなるのでしょうか。もっと根本的な問題があったりしませんか。「企業理念」を唱和していますでしょうか。唱和しているとしたら、そこから派生している「いいこと」は何でしょうか。変わって欲しいのに、変わらないことは何でしょうか。その変わらないことは、本当に変えなくてはならないことでしょうか。変わって欲しいと思う中に、実は自社の強みと繋がっていることはありませんか。

創業の理念に対してどのような状況でしょうか。創業の理念を掲げていたとしても、その理念が活かされていないのでしょうか。なぜ活かされていないのでしょうか。創業の理念に対する違和感も追求してみてください。事業内容が変わってしまったのでしょうか。時代背景による文言が多くて、現在に落とし込めないのでしょうか。創業の理念に対して自分が描くあるべき姿との差分はどんなところにあるでしょうか。

従業員さんたちは、どのように感じているでしょうか。できるなら、社内で聞き取りをしてみてください。例えば、唱和しているだけで「だから何?」という状態にあるとか、「言えますよ!でも活かしているかと問われたら、どうでしょう・・・」という状態なのか。

「「企業理念」に基づいて判断しても、上司と意見が合わなくて、「企業理念」が優先なのか、上司が優先なのか、どっちなんですか」

という状態だったり、

「この部分は理解できるけど、ここはどうなんでしょうね・・」

という状態だったり、いろいろな場合があると思います。一つひとつ丁寧に聞き取って、違和感の正体を見極めてください。「企業理念」自体の問題なのか、浸透度合いによる問題なのか、活用方法の問題なのかを切り分けてください。

もう一度、あるべき姿を考えてみてください。変わってきているところが出てきていないでしょうか。
自社の強みだと思っていたことに変化はないですか。隠れていた強みを発見できたりしませんか。「企業理念」は企業の基盤であり、軸であり、核であり、そこから形成される風土です。それをどう作るのかは、経営者がどこまで考えたか、なのです。面倒ですが、いま考えないと、もう考える機会は得られないことを強く認識して、取り組んでください。

<自社の核をみつめる>

変えてはいけないところは何でしょうか。何度も考えているうちに、変えてはならないと思っていたことが変わってきていませんか。実は、変えてもいいと思っていたことが、実は最も大切にしなくてはならないことだったりしませんか。自分だけでなく、先代や、古参の社員とも話し合ってみることをお勧めします。

自社で大切にしてきたことは何でしょうか。従業員さんが大切にしていることは何でしょうか。また、大切にしたいと思っていることは何でしょうか。従業員さんが大切にしていることと、あるべき姿として描いたことは、一致しているでしょうか。もし一致していない時ならば、どのように考えているのでしょうか。

従業員さんに辞められては困るので、おもねるのでしょうか。それとも、あるべき姿を固持するのでしょうか。どちらかではなく、じっくりと話し合ってみてください。まだ「企業理念」は創られていないのです。いま話し合っておかなければ、「企業理念」ができあがった後の浸透に大きく影響を及ぼします。

どういうところがお取引様やお客様から褒められるのでしょうか。それが自社の強みと関連づけられているでしょうか。その根底は、「企業理念」から始まっているのでしょうか。それとも、全く関係ないのでしょうか。

実は従業員さんがしてくれていたことが強みになっていたりしませんか?その場合、従業員さんにきちんと聞き取りをしてください。「なぜそのような行動をとってくれたのですか?」と尋ねてみて下さい。恐らく、創業者の人としての在り方が影響していると思います。その場合は、その必としての在り方が自社の強みになっているということです。

今までの社史の中で、いちばん苦労したことは何だったのでしょうか。もう絶対に避けたいような危機はあったでしょうか。それは、なぜ起きたのでしょうか。どのように考えて行動して、その危機から脱出できたのでしょうか。その脱出の経路に自社の変えてはならないところが埋まっています。

創業の理念や社是を正しく理解しているでしょうか。使われている一つひとつの言葉の背景も理解していることが重要になります。背景にある物語により、会社が永続し、働く人が幸せであるような在り方が見えてくると思います。

<未来をみつめる>

VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)の時代と言われています。予測が難しく、変化が激しい社会情勢の中、未来を見つめることは難しいと受け取られがちですが、流行や人の思考を予測しろ、と言っているわけではありません。自社がどのような会社で在りたいのか。これからも大切にしていきたいことは何なのか。

どんな社会にしたいと思ってきたのか。どうなったら自分の人生の成果として納得できるのか。
誰に継承させるのか。その時の会社はどのようになっていればいいのか。事業領域は変えてもいいのか、変えてはならないのか。そして、自社のあるべき姿はどうなのか。

会社は、経営者の生き方、人生の縮図です。ブレない生き方にするためには、何を大切にしていけばいいのでしょうか。今いる若手の社員さんの5年後、10年後、20年後、30年後を考えてみてください。その方が30年後まで働いてくれる会社は、どんな在り方の会社なのでしょうか。想いを高めて、濃縮させましよう。

<想いを紡ぐ>

これまで考えてきたことから、キーワードとなる言葉をピックアップし、それをもっと凝縮させたり、その中の最も大切なことにフォーカスしたり、そこから発展していったりと、ゴムのように上下左右に引っ張ったり、縮めたりしながら、言葉を紡ぎましょう。

気をつけなくてはならないのは、全部を言おうとしないことです。長いだけで心に響かない「企業理念」は活用できません。言いたいことは、浸透させる時に何度も伝えればいいですし、解説でも注釈でも謳ってもいいのです。「企業理念」は日常の会話の中で、口の端をついてこそ活かすことができるのです。思い出さないと出てこない「企業理念」は、形骸化してしまいます。

きっちりとした文章が好きな方もいらっしゃいます。その時は、「我々は、〇〇を目的として□□をもって広く社会に貢献する」というような文章と並列させて、スローガンとして「△△でいこう」というような言葉を創ることをお勧めします。この場合、従業員さんに語り掛けるのは、スローガンとなる言葉だけです。きっちりした言葉は、解説文の扱いになります。

「企業理念」は短ければ短いほど良い場合があります。それだけだと「ふ~ん」で終わってしまいそうな言葉でも、奥行きがあって、深くて、多角的に捉えることができて、時間軸も直近から百年後まで伸び縮みできて、思わず言いたくなるような言葉であれば、最高です。短い言葉は、同じ会社にいる仲間同士の合言葉にもなります。そして短い言葉は、頭の片隅に置いておくことができます。

例:『いい会社をつくりましよう』(伊那食品工業.長野県)
『みんなの笑顔がこじゃんと嬉しい』(四国管材.高知県)
『常に考える』(未来工業.岐阜県)。

短いからといって、これまで考えてきたキーワードを、よく考えずにそのまま利用してはなりません。結果として言葉が同じになることもあるかもしれませんが、中身をどれだけ考えたのかによって、「これから」が全く変わってきてしまいます。「紡ぐ」という言葉は、原材料である繭や綿に縒りをかけて糸をつくることを言います。言葉を原料のまま使用するのではなく、縒ることで目的に合った太さにもなります。それにより、ツヤもでますし、「縦糸と横糸という織物」としての「企業理念」を醸成していきます。

<解説を創る>

解説は、「企業理念」を補完するものになります。想いが強いほど、考えれば考えたほど、何を言いたいのか、どんな想いなのかを伝えたくなると思います。

「企業理念」は遵守することが目的ではありません。
解説は目的を見失わないようにするためにも、とても重要な役割を果たします。解説を読むことで、どういう行動をしたらいいのかということまで理解することが可能になります。

対外的にも、「企業理念」だけだと共感を呼ぶところまでいかなくても、解説を読んでもらうことで想いの強さやどのような在り方の会社なのかを知ってもらうことで共感してもらえる可能性が高くなります。

更に、絶対、変えて欲しくない想いは、解説にしておかないと継承できなくなるリスクが生じます。継承する人がどのように考えるのか、ではなく、「こうなんだ」ということを文章にしておいてください。
「企業理念」は頻繁に見直すことはありませんが、解説であれば都度、もっと力強く、もっとわかりやすく、もっと伝わりやすくとブラッシュアップしていきます。

<創業の物語もつくりましよう>

創業の物語は、社史の一番始めという位置づけではなく、どんなことを想い、どうしたい、どう在りたいと考えて創業したのか。何を大切にしている会社なのか。どういう苦労があって、その時に助けてくれたのはどういう人だったのか。家族でガンバってきたなら、その一人ひとりにスポットを当てて、ここに会社が存続していることがどういうことなのかを伝えましょう。

継承する人が子孫であるほど、流行りの経営手法に踊らされて、今までのやり方が古いとか、非合理的だとか、昭和の時代を引きずっているとか、いろいろ出て来るとは思います。けれども、今ここに会社があることは事実なのです。もしそんなに全部ダメなら存続していないのです。前述したように、本当に変えていかなくてはならないところは何なのか、流行りに影響されて勘違いしているかもしれないことは何なのか、本当の自社の強みは何なのか、そういうことを理解したり、伝えたりするのに物語はとても有効です。

更にいえば、いつも創業時の気持ちに立ち返ることもできるのです。
苦しい事があっても、あの時に比べればとガンバる元気が出てくるかもしれませんし、あの時助けて頂いたのだから、もう少しガンバろうと励みになるかもしれません。仲違いをした時にこういう苦労をかけたなと読み返せば素直になれることもあるでしょう。物語は写真とナレーションで映像にするのもいいと思います。従業員さんの中に得意な方がいらっしゃるのではないでしょうか。

さあ、「企業理念」と解説の文章はできましたでしょうか。

これから何十年と使うのですし、これからの経営の土台になるのですから、もうこれ以上は無理だと思うまで、とことん考えてくたざい。まず、核となる「企業理念」をつくり、数年かけて前後を足していく方法でもいいのです。創業の想いが、まずあっての自分の想いです。

パッと思いついた答えではなく、落ち着いた環境で自身に向き合い、「本当にそうなのか?」「いや待て、そうではないかもしれない・・」「そういえば、こんなことがあった時に思ったんだ」「自分の考えは、人として正しいのか」ということを一つひとつじっくりと考えて答えを出してください。ここでどこまで真剣に考えたのかが、理念を制定した後の経営に効いてきます。

決して焦らないでください。

○「企業理念」を浸透させる

「企業理念」は、活かしてこそ役に立つものです。創っただけでは何の意味もありません。
「企業理念」を活かせる状態になるために、どうやって社内に浸透させて、組織風土・社風・自社の文化にまで高めていくのか、ということが大切になります。浸透させるのはホームページではありません。従業員さんを筆頭に関わる人すべてであり、人に語り掛けるのです。

<浸透させる方法を考える>

ヤマト運輸株式会社(東京都)では、ドライバーの方が感じた日常の出来事を、感動の動画にまとめています。それによりヤマト運輸の存在意義を知らしめているのです。そして、感動させることによって心に響かせ、肚落ちさせ、行動変容を促しているのです。「企業理念」を浸透させるということは、結局、「こういう会社にしよう!」「こういう行動をやってみよう!」と思わせることにあります。「やってみたくなっちゃう」ことが大事であり、そのための仕掛けになります。

唱和しただけでは、あまり効果はありません。唱和しているのだったら、グループディスカッションを行い、「企業理念」について話あう。「企業理念」に準じた行動をとった事実を披露しあい、横展開につなげていく。会社のあるべき姿に対して、そのギャップを埋めるために企業理念を、どのように解釈しているのかを話し合い、自分にできることを明確にする、というもう一つのステップが必要です。映像は見るだけでも行動変容につながる可能性はありますが、同様にグループディスカッションにつなげていくと更に効果があります。

更に、何よりも、経営者、経営陣の率先した実行です。その後ろ姿を見て、従業員さんたちは本気度を知るのです。絶対、経営陣の面重背反だけは避けなくてはなりません。

社長と一緒の時には「企業理念」に沿った行動をとるけれども、それ以外のところでは「形だけやっておけばいいよ」と言ったり、「企業理念」に則らない判断をしたり、配下が「企業理念」に準じた提案をしてきてもそれを無視したり、ということがあれば、「企業理念」が浸透することは「あり得ない」ということになります。従業員さんたちに発表する前に、経営陣の「企業理念」の徹底が肝要です。

その徹底は、社長からの指示で行われてはなりません。

経営陣に対して想いを語り、みんなが納得し、賛同し、実行していくことができて、初めて従業員さんたちに言うことができるのです。経営陣は社長と「企業理念」のエバンジェリスト(伝道者)として機能してもらうことが必要です。そして、社長の話の中にいつも「企業理念」がでてくること、経営陣を含め、

何気ない日常会話の中に「企業理念」が感じられること
経営陣の指示や決断からも「企業理念」が軸としてあること

こういうことが固まるからこそ、従業員さんに展開した時にブレないものとなるのです。
「企業理念」ができたからと、いち早く発表して、それによってどんどん社内が変わって、ますます業績がよくなって・・と焦る気持ちはわかりますが、全て妄想ですよ!足場をきちんと固めていかないと、砂上の楼閣でしかありません。

会社のあるべき姿として夢を描くことは大切ですが、浸透にあたっては夢をみていても何の役にも立ちません。前述したように、「企業理念」が浸透して会社の軸になるのには、長い時間を必要とします。周年記念で掲げたとしても、それが血肉となり風土となるには、長い時間が必要なのです。ここで焦ってはなりません。「ローマは一日にしてならず」の諺どおりです。

即実践、即実行。

<後継者に「企業理念」を植え込む>

後継者は、「企業理念」の継承が最も大切な仕事になります。
松下電器産業株式会社(大阪府)も社名を変え、「企業理念」をおざなりにした結果、苦境に陥りました。仕事の能力が優秀なだけではだめなのです。V字回復ではなかった事実。いかに、その企業の理念を体現している人なのか、企業文化・風土を大切に思っているかどうか、ということも後継者の大切な特質になります。

一方的に、教えるだけではダメです。
後継者がどのように考えるのか、「企業理念」のどこに賛同しているのか、どこを軸として捉えているのか、どこを考えすぎていて、どこが逸脱しているのかなど、十分に話を聞いてください。

後継者の考え方も否定してはなりません。

どのように考えているのかを知らなければ、どう指導していくかわかることはありません。後継者の中で自社の「企業理念」として譲れないもので在る可能性もあるのです。その場合、「企業理念」との折り合いをつけるべく方向性を示すことになるのか、もしかしたら後継者から外れて貰うことも必要になるかもしれません。繰り返します、一方的に教えるのではなく、後継者がどのように考えているのかを聞いてください。

例題を用意して、こういう場合はどう考えるのか、ということをディスカッションしてもいいですね!具体的になるので、わかりやすいと思いますが、正しい/正しくない ではなく、後継者の考え方を理解した上で、どう考えて欲しいのかを伝えるのです。これが「企業理念」の浸透だけではなく、企業永続の鍵にもなります。

<従業員さんに働くことを考えてもらう>

「何のために働くのか」「働くことは、幸せなのか」ということが問われる時代になりました。「食べるために働く」という、他のことを何も考えられないような時代は遠くに過ぎ去り、高度成長期のように、「働くこと=豊かになること」という図式も成り立たなくなりました。更に、情報が簡単に入手できるようになるにつれて、自分の働き方と他人の働き方を比較するようになりました。その結果、少しでも「楽をして稼ぐ」という人たちが増えました。反面、どうせ働くのなら「自分の成長につなげたい」「人のお役に立ちたい」という意識の人も増えてきました。

宗教的、歴史的な違いもありますが、そもそも、働くことが「苦役」なのは、西洋の考え方です。日本では働かないことは「お天道さまに申し訳のないこと」でした。根底の考え方が違うのに、働き方だけが西洋化していった結果、うつ病などの精神を病む人の増加にも影響しているようです。
そして、「自分は何のために働くのか」「自分の在りたい人生はどんななのか」「どういう世の中にしていきたいのか」「世の中に対してどういう義務があるのか」ということを考えなければいけない時代になったのかもしれません。

大病を経験した方は、一様に「こうしてまた働けることが幸せ」だと言います。いま、「何のために働くのか」「働くことは、幸せなことか」と問われた時に、どう答えますか?従業員さんたちは、どう答えるでしょうか。

ここに「企業理念」を軸として与えるのです。
「企業理念」をきっかけとして、自分の人生を考えてもらい、その上で会社の中でどのような存在でありたいのかどのような能力を発揮させて貢献したいのか

キャリアデザインとして自社で働くことをどのように位置づけているのかということまでも明確にしてもらうのです。それによって従業員さんにとっての働くということが、イヤなこと、辛いこと、というような認識から、働けることの幸せに変換していくのです。この仕事をイヤなことだと捉えるのは、「サザエさん症候群」という名前があるように、「会社へ行きたくない」という感情から生まれます。

休日に比べて早起きしなくてはならないとか、通勤が大変とか、いろいろな事情がありますが、本当に仕事がイヤで仕方ない、という人は、実はあまりいないのではないでしょうか。休日に遊んでいる状態と比較したら、それはイヤという位置づけになるかもしれませんが、生活費を稼ぐこと以外での働くことの価値もどこかで感じていると思います。「月曜日に行きたくなる会社」=「いい会社」、そして「そこでなくてはならない人である自分」となることを目指してください。

一人ひとりの在り方が時代に影響を与え、そのひとりひとりが集まった会社は、もっと大きな影響を世の中に与えます。働くことに幸せを感じる従業員さんがいる会社は、お取引さまや地域社会へも影響していくでしょう。そして、一人ひとりの従業員さんのプライベートな活動においても、関わる人たちに
いい影響を及ぼすのではないでしょうか。そう考えると、経営者の持つ力はとても大きいのです。

「いい会社」にしていくことで、幸せの輪が拡がっていくと考えると、ガンバる力が湧いてきませんか。

もっと言えば、幸せそうに働く親を見て育った子どもは、働くことを苦痛だとは捉えないでしよう。子どもたちが「働くことは幸せなことだ」と思える社会にしたいですね。それには、今働いている人たちが幸せであることが大事なのです。「幸せに働くこと」は、人が生きていく上でとても大切なことなのです。「いい会社」の在り方は、会社ごとに違います。「企業理念」を軸にして、あるべき姿にしていくのです。それは「社徳(社格)」となり、会社の永続につながっていくことでしょう。そういう会社同士がつながって、国中に「いい会社」が広がり、それがグローバル展開していくことで、世界にも広がって行くことを夢見ています。

○「いい会社」に進むための道程

<従業員を大切にすること➀>

「いい会社」の法則の1番目に「社員を大切にしない会社は生き残らない」があります。これを理解できるかどうか、本気で社員を大切にしようと思えるかどうか、ここが「企業理念」を活かせるか、どうかの分水嶺になります。頭ではわかっても、なんで給料を払っているのに?と思う気持ちがあるうちは、「企業理念」を創らない方がいいでしょう。

また、「一番大切にするのはお客様」と思っているならば、同じく、形骸化するだけです。この法則が理解できた時に、また作り直したくなる可能性は高いのです。従業員さんが集い、そして彼ら彼女らを仲間として見ることができるかどうか。一人ひとりの得意を活かして、役割を与えて、「明日も来たい会社」と思えるようにできるかどうか、そこにコミットできるかどうかが問われます。
従業員さん一人ひとりに関心をもち働く環境を良くすること、従業員さんの不満を取り除くことに注力していくことです。

<従業員を大切にすること➁>

働く人の誇りはどのように捉えていますでしょうか。賃金をもらって働くということが自分ごとになっているでしょうか。給与は仕事に対する後払いの対価ではありません。本来は、参加費用として最初に渡すべきものです。

彼ら彼女らは参加費を受け取って、会社に来ていると考えてみては、いかがでしょうか。毎日出社した時点で「今日も来てくれてありがとう!」の気持ちと共に渡す感じです。それを月末また期日にまとめているのが月給なのです。従業員さんを大切に思うからこそ、その仕事が楽になるような投資は惜しまない、という在り方を実行して、大切にされていることが伝播していくことも大切です。

「設備を導入すると減価償却費があがり、原価の高騰に拍車がかかるし、現実として現預金が減ってしまう。だからできるだけ設備は延命させてくれないと困る。それによって品質不具合がでそうならば、それを防止しながらなんとかやってくれ!」

というのは、よくある対応ではありますが、「いい会社」経営とは真逆、言語道断です。

「なんとかやる」というのは、どういうことでしょうか。
そこで、もし不良品ができてしまったら、その責任は機械を動かしていた人になるのでしょうか。

「だから気をつけるように言っただろう!」

と怒るのも違いますよね!
確かに、設備導入の決裁をするのは経営者です。その判断を財務諸表や現預金の数字を基に行うのか、「企業理念」を軸にして、従業員さんのことを考えて行うのか、ということなのです。口では「働く人を大切にする会社にしよう」と言い、「企業理念」に掲げたとしても、実際の言動が相手の立場で物事を見ていなければ、何の意味もありません。

全体としては、そうだけども、あなたのことは大切にしない、なんてことはあり得ません。経営側との信頼関係を醸成させ、社内の問題点を発見するべく勤めるのも、従業員さんを大切に思えばこそだと思います。

<従業員を大切にすること➂>

お客様から支持されるすごいサービスがあると仮定します。それを支えているのは、あなたの会社の人ですよね。会社が「すごいサービスだ」と仕組化していたとしても、応対するのは従業員さんなのです。そして、従業員さんが「やらされ仕事」だと感じていては、「すごいサービス」を提供することはできません。どこかで綻びがでてしまうでしょう。

従業員さんが誇りを持って、本当にそのサービスを提供したいと思うことこそが大事であり、その場合は「やらされ仕事」ではなく、自分の役割として取り組むことになるのです。会社が従業員のみなさんを大切にしているからこそ、従業員さんはお客さまに対して「すごいサービス」を提供しようと思えるのです。「すごいサービス」の仕組みを作ったからよいのではないのです。

最後は「人」なのです。

その従業員さんが大切にされているだけでなく、「企業理念」という、あるべき姿へ向かっているからこそ、お客さまからも支持されていくのです。大切にされていない従業員さんがお客さまに「すごいサービス」を提供することもできないです。そんな中、「企業理念」がないバラバラの状態で会社として「すごいサービス」を提供していくこともできないのです。

<社員教育は投資なのです>

社員教育に投資して、判断の確実さを高めていくことも大切です。

Z世代と言われている若者たちは、自分が成長できるかどうかを重視しています。SNSにより成長をアップしている人と自分を比較して、投げやりな気持ちになってしまうこともありそうです。ここで叱っても怒っても焦ってもなりません。

自分で考えて、自分で自分に投資して、成長していけばいいのです。
しかし、なかなかそうもいかないのが現実で、やはり会社からの後押しは大切です。個人での学びは、本人が申告しない限りわからないこともあります。また、意欲と成果を連動できないことも起きてしまいます。長い目で見ると、本人のやる気を削いでしまうことにもつながりますので、会社として投資するだけでなく、個人の学びへの支援も宣言できると働く幸せに発展していきます。会社の差別化を図るのは従業員さんです。
差別化は、優劣を決めることであり、何ができることで、何ができないことなのかを明確にすることです。けれども従業員さん同士に対して、差別をしてはなりません。従業員さんにしていいのは、体力の有無などによる「区別と配慮」となります。できないことに対しては、教育することでできるようにしていく視点も大切になります。

同時に、個々の従業員さんの強みを活かして、みんなで補い合うということも大切であり、できないことに注目しすぎないような寛容さも経営には必要です。できないこと、苦手なことがあるからこそ、多様な人が集まって補い合う意味があるのであり、美点凝視が基本なのです。従業員さん一人ひとりに投資し強みを活かすことは、会社の質を高めることになり、この従業員さんたちでしか提供できないものが生まれるからこそ差別化、優位性につながるのです。

<会社は従業員さんを幸せにするために存在する>

会社は本来、会社を構成する人々の幸せの増大のためにあるという認識が重要です。ここを本心からそう思えるかどうかが「いい会社」への道の入り口になります。そして、従業員さんはその大部分を占めているのですから、従業員さんの幸せを求めていく経営は必然といえるのです。
仕事には、何かを作り出すことであったり、困難なことを成し遂げることであったり、また、生計を立てる手段であったり、行動の結果・業績から自分の存在意義を見える化したり、社会の中の役割を果たす行為としての位置づけ、などの様々な切り口がありますが、人が集まって成り立つ「会社」という器は、各々に役割を果たすことで存続しているのです。

ここで、効率重視の仕事は、「役割を果たす仕事」と言えるのでしょうか。

効率は、その仕事に使用する人件費を下げようとすることです。
それにより原価を下げたり、効率を上げて空いた時間に他の仕事を詰め込こんだり、少ない人数で少しでも稼ぎだそうとすることです。稼ぐことは大切ですが、人をこき使うことは効率化ではないです。

そのような在り方は、「役割を果たす」ことに付随するものであって、効率が目的ではありません。ところがその人なりの容量で役割を果たしていても、効率で他の人と比較されて、価値を下げられてしまうのです。

人はそれぞれに能力が違います。

優秀な人は難なくできることが、大変な努力を要する人もいます。得手不得手をすべての人に公平に与えられる会社も職場もなく、苦労しながらも努力している様を知らないかもしれません。得手不得手を十分に把握して役割を振れればいいですが、やってみなくてはわからないことがほとんどなのです。

どのように評価するのか、公平とするのか、育てるのか、異動してもらうのか、施策は会社ごとに違うとは思いますが、効率重視ではなく、役割を果たす仕事こそが、働く人を幸せにする仕事といえるのではないでしょうか。
その人に割り振られた役割を果たすことで、自分の居場所を確保していくことにもつながり、「ありがとう」と言われることも増えてくると思います。役割に不満な人は自ら申し出ることができるのも大切です。

反対側から考えてみましょう。
社会を動かし、世の中をより善いものにしようとして在る企業においては、労働を提供してもらうことは必然であり「働くことの幸せ」を求められても、対価として給与を支払っている以上、それは余剰部分と捉えることもでき、そこに注力する必要を感じないでしょう。

働く人を幸せにすることで、その幸せを感じた従業員が顧客にも反映させていき、それが売上や利益となって企業に還元されるという循環による在り方もありますが、企業は利益のために労働を求めるという一面と、従業員を幸せにするために利益を求めるという一面を同じ大きさの両輪としてバランスしていく在り方が必要になります。そして、その両輪をバランスさせる軸として「企業理念」があるのです。「企業理念」という軸がなければ、利益の意味合いが変わってきてしまいます。

株主への配当のため、経営者の成績のための利益だけではありません。従業員さんとその家族、お取引さまとその家族、地域社会の皆様を幸せにするために利益を必要とし継続するためなのです。そしてその利益の素は、お客様を幸せにすることで得られるのです。更に、余った分で株主にも経営者の苦労にも報いて、幸せをお裾分けできる、という在り方なのです。もし、この軸と両輪がなければ、その時々において、どちらかに傾いてしまうでしょう。それは、多くは「利益のために労働を求める」だけになり、得られた労働は酷使され、効率だけを重視する働かせ方になってしまうことでしょう。そして、働く人が「幸せに働くこと」は見過ごされてしまう可能性が高くなると危惧します。

<「企業は人」なのか> 
なぜ「人」だとされているのでしょうか。

企業は「人」だとよく言われていますが、真剣に考えたことがありますでしょうか。
「それはそうだよな」というところで止まっていませんか?機械も材料も人がいなければ活用できないですし、営業もECサイトでもない限り、人対人で行われるからでしょうか。ECサイトだって完全に無人ではありません。会社という組織を動かすためには人の管理が必要で、それは人にしかできないということでしょうか。

「命はお金には代えられない」といいますが、本当にそう思いますか?

そう思いつつ、従業員さんの「命の時間」、「生きている」ことをお金で買っていないですか?給与を支払っているのだから、その分は働いてもらわないと・・・という思考は、「命」をお金で買っています。そうは思いたくないけど、「生きている」ことを軽視していて「働け」というのは、幸せになるハズもなく、そこでは、従業員さんが働く上で、お金に換えられない価値を感じられるようになっているでしょうか。それは福利厚生の充実を指しているのではありません。

もちろん、福利厚生の充実も魅力的ですが、資金の余力によっては施策も変わってくるでしょう。ただ、それよりも、従業員さんに「なぜこの会社で働くのか」ということの意味を認識してもらい、自分の役割、自分が貢献できること、仲間と成し遂げたいことを明確にしてもらうことで、働くことが幸せなことにしていくのです。それによって、好循環が生まれ、会社としても成長していくのが「企業は人」という本質なのです。軽々しく「企業は人」といわないほうがよいかもしれません。

<王道を歩むこと>

経営は王道(正しい道)をいくのが永続する基本です。
儲けをメインにして覇道を進んでいる会社に「企業理念」は不要となります。着飾るだけの「企業理念」に惑わされないように覇道を突き進んていくのも経営方針です。儲けだけで経営をして、羽振り良く振る舞いたい会社に「企業理念」で騙される若者が入社するのは我が子を思えば、とても悲しく、絶対に防ぎたいのが親心です。自分の子どもたちを企業の儲けの材料に提供する親はいないと思います。

「企業理念」は王道(正しい道)を行く時の拠り所であり、判断基準として役に立つものなので、王道(正しい道)を行く覚悟がないなら「企業理念」も要りません。それだけ王道(正しい道)を歩むということは大変なことなのです。

「企業理念」という、背骨を支えてくれる存在、杖となってくれる存在、両わきをガードしてくれる
存在、背中を押してくれる存在がないと難しいのです。ともすれば、正しいと思って横道に逸れてしまいます。正しい道だと見せかけられて、歩み始めたらとんでもないことだった、ということも起きてしまいます。経営には誘惑も多いですし、脅しもあります。よかれと思って決断したことに対して、決断した後まで迷うことも多々あります。

だからこそ、「企業理念」が必要なのです。

自分の使命として経営していても、同業からの圧力やら親族からの圧力やら、ネットでの炎上やら、
思わぬ中傷をうけたりすることもあります。そういう時に背中を支えてくれるのが「企業理念」です。
「企業理念」を軸にして従業員さんを大切にしていれば、従業員さんが必ず支えになってくれます。

それだけ「考えに考えた「企業理念」を創りましょう」ということです。そして、その「企業理念」に沿わないことは、徹底して「やらない」と決めるのです。王道(正しい道)を歩むことが「正しい経営」につながり、それは創業の原点から考えていくことで見えてくるのです。

<正しい「企業理念」>

「企業理念」を「幸せに働くこと」に活かすには、

1.正しい「企業理念」であること
2.浸透させる努力が続いていること、

の二つが挙げられます。

経営者の私利私欲であったり、誇大妄想のようであったり、どこかの会社の文章をつなぎ合わせただけのものではなく、正しい「企業理念」とは公益性があり、経営と働く人と社会に資する存在として考え抜かれたものであることをいいます。

創業の志まで戻って考えている、とことんあるべき姿を考えている、未来の自社を創造する過程をイメージできる、ゆずれないものが明確になっている、何のために経営しているのかを本気で考えている、だからこそ、ブレそうになっても踏みとどまることができるから、正しい「企業理念」になるのです。

創業者の想いとして、様々な切り口の解釈が可能になるものも「正しい企業理念」に含まれます。そして「浸透させる努力」には、唱和したり掲示したりするだけでなく、

「働く人の口の端にのぼっていること」
「企業理念に基づいた行動が評価されていること」
「例外を作らないこと」
「行動や意志決定のスタート地点になっていること」

も重要になってきます。

正しい「企業理念」で「浸透させる努力」を怠らなければ、会社としての公益性に確固たるものが芽生えます。それは働く人の誇りにもつながり、働く意欲にも繋がっていくことになります。そして、「働く人を幸せにすること」と「必要な費用を稼ぎ出すこと」の両輪がバランスよく回ることで、働く人の幸せも更に醸成されていくという好循環になります。

正しい「企業理念」を掲げていても実行が伴わない会社は、共感して入社した人の離脱を招き、企業のあるべき姿が確立されることはなく、従業員の老齢化と共に衰退し淘汰されていくことも起こり得ます。
同時に、働く人は「企業理念」に共感するだけでなく、自分を活かしていく方法を模索し、たとえ自分のやりたい仕事ではなかったとしても、大きな目的である「企業理念」とのつながりを理解することで、自分の存在もまた意義をもつものとするように導くことも大切になります。経営側の在り方と、働く人の在り方のどちらも「企業理念」を軸にした考え方が大切であり、どちらかが他を向いていたら、「企業理念」を軸にした、あるべき姿にはなっていかないでしょう。更にいえば、「企業理念」を軸にした在り方は、一朝一夕に成るものではなく、時間をかけて、そうあろうとする想いを持続させて、倦まず弛まず」進めることにより、醸成されていくのです。

<100年後の夢を見る>

「いい会社」になるには時間がかかります。
人の思考が変わるからこそ風土も変わっていくので、どちらも、すぐには変わりません。自分が経営している間には「いい会社」になれないかもしれないけれども、それでも未来を楽しみにして、在るべき姿を追い続けることができるかどうです。松下幸之助翁は250年後の未来を語りました。

伊那食品工業株式会社(長野県)では100年カレンダーを使用して長期視点を意識させています。

「なぜやらない!」「なぜできない!」

時間がかかるとわかっていても、つい焦ってしまうのが人間です。焦りは従業員さんたちへの非難につながります。そうなりがちの人ほど、100年カレンダー(一般社団法人 日本記念日協会)を入手してください。そして、改めて「企業理念」を軸に据えた日から、5年後、10年後と、丸印をつけておいてください。ここまでには、どうなっていたいというイメージをもって、先々の日々を目で見て、冷静になってください。

「企業理念」を作っても、行動が伴わなければいい結果は生まれません。焦りも禁物ですが、行動し続ける粘り強さが問われるのです。
100年後の会社の姿を夢みて、行動し続けてください。

<継承にあたって一番大事なこと>

「企業理念」は事業継承の軸となります。

継承するには、経営手法から、お客様との歴史を伝えることなど、たくさんの項目があります。ここで最も重視しなくてはならないのは、「企業理念」を継承することです。一通り揃えたから大丈夫と安心してはなりません。継承する人が肚落ちするまで話合い、説明し、想いを共有するところまで到達しなくてはなりません。先代への反発があれば、この段階で浮上してきますし、そこを是正することもできます。どうしても「企業理念」に納得しないようであれば、そういう人に継承させてはなりません。ここが一番肝要なのです。

従業員さんたちにとっても、先代の在り方で働いてきたのに、ある日を境に、その在り方を否定されては自分の働き方を否定されたように感じてしまいます。

もう一度言います。

「企業理念」が理解できない人を後継者にしてはなりません。
家族経営においても、長男だからとか、この子しかいないから、というのは、何の理由にもなりません。財務諸表の見方などは、「企業理念」が肚落ちしてからで十分に間に合います。

<継承にあたって大事なこと:継承させる側>

ご自身は「カリスマ経営者」でしょうか。

客観的にみて「中興の祖」と言われてもいいほどの活躍をされているのでしょうか。もし、そうであれば尚更、事業継承に時間をかけて、「企業理念」と共に何を大切にし、どのような人としてあろうとしたのかも含め、後継者を育成してください。「企業理念」が軸にあっても、経営者の人間性のもたらす影響は大きいものがあります。そうでない人でも事業継承により発展した会社では「企業理念」がきちんと伝わっているものです。

多くの場合、経営者と企業理念は相乗効果を発揮しています。「企業理念」を体現しているのが経営者であり、歩く姿から「企業理念」を感じられることもあります。それを後継者にいきなり求めても無理もあり無謀なことなのです。歳を重ねることも必要かもしれません。時間を掛けることも大切です。けれども、拙くても、そうあろうとしていることを敏感に従業員さんたちは感じ取ります。「企業理念」と共に、経営者としての在り方も伝授してください。

<「企業理念」と共に継承にあたって大事なこと:継承する側➀>

なぜ、ここまで会社が存続できたのでしょうか。

親子間で継承するのであれば、自分は何のおかげでここまで成長することができたのでしょうか。創業からの社史、沿革を振り返ってみてください。そこに書かれていない、苦しかったこと、嬉しかったこと、成し遂げたこと、言葉にできない程の感謝、苦闘、創業者がご存命であれば、いろいろな話を聞いてみてください。まずは創業の想いを確認することです。

サラッとしか教えてくださらなくても、実は深い想いがあることもあるので、会社の根幹を探求するつもりで、好奇心と畏怖をもって深堀してみてください。その後の出来事は、漠然と聞いても話にくいこともあるので、年譜を参考にして取り掛かるのも良いと思います。事業内容が創業時から変わってきている場合、その背景を知ることも大事になります。更に、古参の社員、既に退職した方からも、いろいろ聞いてみてください。

ただ、どうしても、昔のことは美化されがちです。

本当はイヤなこともたくさんあったはずなのに、どういうわけか覚えているのは「よかったこと」と「大変だったこと」になりがちです。どんなことが辛かったのかも聞き出せると、これからの社風の反面教師になるかもしれません。製品開発の時のいろいろな出来事、事件も事故も、その時の仲間との別れ、お客様からの厳しい意見、サービスに込めた想いについても背景を知ることはとてもとても大切なのです。現時点の「結果」だけを見て、良い悪いということを判断するのではなく、背景を知ることで変えてはならないことと、変えていくべきところを探ってみてください。その仮説をもって、話し合いをしてみることで正しいかどうかもわかると思います。

<「企業理念」と共に継承にあたって大事なこと:継承する側➁>

ご自身の価値観を考えてみてください。どうしてもゆずれないことは何でしょうか。もし、そのどうしてもゆずれないことと、創業の理念の折り合いがつかないようであれば、会社の継承を第一にするのか、自分の考えを第一にするのか、どちらかを選択してください。自分のゆずれないことをそのままにして、相容れない会社を継承してはなりません。それは働いている人にとって迷惑となるのです。もっといえば、大変な思いだけして廃業に追い込まれる可能性が高くなります。会社は、過去への感謝なしに継承することはできないものです。

一番いいのは、自分の価値観と創業の理念の折り合いをつけることです。優先すべきは創業の理念のほうです。

自分のことを次点に置くことができないのであれば、共に働いてくれている従業員さんたちを幸せにすることはできないでしょう。ここまで、かなり厳しいことをお伝えしました。この覚悟がなければ、追い込まれた時に必ず自我が現れます。創業の理念を継承することができないならば、別会社を経営してみて下さい。その方がいいです。事業継承にあたり「企業理念」をよくよく考えてみてください。

<高尚な「企業理念」とは何か>

「企業理念」というと、高尚なものでないと恥ずかしいと思う方もいらっしゃいます。
このことは「企業理念」を実行するための手段でなく「額縁に飾る」ものと考えている経営者もいるくらいです。けれども、「企業理念」は実行してこそ意味があるので、難しい「高尚な理念」は実行の前に壁となって立ちはだかると思ってください。故事や四文字熟語、意味深な「漢字」や造語を、これから創るのであれば、避けて下さい。

それでなくとも従業員さんたちに浸透させて社風となるまで高めていくには多大な時間がかかるのに、難解な四文字熟語など、最初から高い壁を作る必要がどこにあるのでしょうか。これは学生時代の校長先生の長い講話、先代らの訓示に見られます。とても覚えている、覚えられる内容ではないでしょう。

「高尚であるべき」という思い込みと、社格とは関係がありません。高尚な「企業理念」を掲げていても、不祥事を起こして廃業に追い込まれる会社もあります。自社のあるべき姿が、高尚な会社であるならば、そういう「企業理念」もなるかもしれませんが、高尚な会社としても、どのように社会のお役に立つのでしょうか。日本という国を代表する、日本人の高尚さを体現する会社なのでしょうか。つきつめて考えていくほど「高尚な理念」には、あるべき姿が伴わない、現実との乖離を感じる方が多いのではないでしょうか。

行動につながる「企業理念」でよいのです。
高尚であることよりも、人として正しい理念であるかどうか、わかりやすいかどうか、行動につながるかどうかの方がもっと大切なのです。故事や四文字熟語が創業理念として掲げられているのであれば、止めてみるのもよいかもしれません。ただ、それを維持していくのは構いませんが、その場合は解説が必須になります。

現在、四書五経を学んでいる人はとても少ないです。そこに書かれていることと、自分の生活や仕事を紐づけられる人も少ないです。現代人には通訳が必要になります。
漢文も漢詩、漢字ばかりで綴られた「企業理念」が子守唄のようになってはならないのです。

<望ましい「企業理念」をつくるには>

望ましい「企業理念」とはどのようなものでしょうか。
どのようなカタチでも「企業理念」でも想いが込められているのであればよいのですが、ガイドラインになるかもしれないので、注意すべき点をお伝えします。

 ・見ただけでどんな業種の会社のものなのかわかる、できれば、会社が推定できる
 ・自社の存在意義が述べられている
 ・世のため人のためといった社会貢献に焦点がある
 ・社内で様々な判断の軸となるべく、浸透しやすい(口の端に上る)もの
 ・会社が元気になる、明るくなるもの

<CI戦略を検討する>

資金的に余裕があれば、CI戦略を採るのもいいと思います。「企業理念」を戦略的に運用するまでに及ばないと決めつけないでくださいね!CIというのは、コーポレートアイデンティティの略で、1950年代に米国で導入され、1980年代に入り日本で流行したものです。グラフィカルなロゴやシンボルマークを使って企業コンセプトと経営理念を明確化し、会社に対する従業員の認識と社外の人間が会社に対して持っている認識を一致させていきます。

大々的な取組みとなるので、社内に「変わろう」とする雰囲気をもたらすこともあります。
CI戦略により、「企業理念」だけでなく、ロゴもHPも刷新され、全ての印刷物も作り直されますので、新しい気持ちになれます。
CIを提供する会社ごとに手法が確立されているので、それに従っていくことでそれなりのものはできますが、形式的になってしまう点に注意です。どの会社を選択するのか、ということが最大の決め手になりますし、資金も必要になります。「企業理念」を一気に経営戦略の中で活用する手もあることを伝えました。

<「企業理念」を重要視しなくてはならない背景>

商品を購入する時に「企業理念」に賛同して購入を判断したり、反対に企業の在り方が納得できなかったりすれば、購買ボイコットが起きたりします。SNSが発達した現在、一人の不満が拡散していくスピードは恐ろしいものがあります。「たまたま」という言い訳では収めることはできないでしょう。

だからこそ、「企業理念」から全てのことを考えていかなければならないのです。採用にあっても「企業理念」に共感できるかどうかは重視されてきていて、「企業理念」への共感の表明は就活において必須の事項となっています。会社は人が集まらなければ、近い将来、存続不可能なのですから、もはや「企業理念」でこの両輪を表わし、「企業理念」に沿う経営を行うことは企業の生死を分けるといっても過言ではないと思います。

<「働くこと」を見つめ直す時代の到来>

企業も働く人も「働くこと」についてしっかりと考えなくてはならない時代になっています。今までは世の中の流れとして何も考えずに働いてきましたが、

既に、自分のスキルや能力を頼りにジョブ型雇用で勝負していく働き方と、共同体としての企業の中で世の中や共に働く仲間と共生していく働き方と、に二分されているように思います。

前者は給与や役職、自分の出した成果により幸せを感じて働くことができ、会社への共感や忠誠という観点は薄く、あくまでも自分の能力をいくらで買うのか、欧米型の在り方といえますが、全体数からいうと一部の人しか該当しないでしょう。

厚生労働省のデータとしても転職して給与UPに繋がる人は37%にしかなりません。その中には能力でアップした人以外に、元の職場の給与が低すぎて耐えきれず転職した人もいることを加味すると、もっと、その率は下がると考えられます。働く人の多くはよほどの理由がない限り、同じ会社で働き続けることになります。

その時に「社畜」と言われるような命の時間を切り売りするような働き方を選択する人はいなくなると考えると、自分の役割や社会に対してどのように役立っているのかを感じながら、周りの方々と楽しく働きたいと思うのではないでしょうか。働く人が「働くこと」を考えるのと同様に、会社も社会的道徳の範疇で利益のみを目的とする企業と、従業員や地域も大切にし、利益はそのための費用という考え方の会社に二分されていくでしょう。
とはいえ、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも利益のみの会社は、もはや存続が許されない風潮にありますので、会社規模によらずそのような在り方はなくなりますが、ジョブ型雇用の人を採用する会社と、そうではなく誰もが活躍することを期待する会社には分かれていくでしょう。
「いい会社」は、誰もが必要とされ、働く幸せを感じられる会社であることは言うまでもありません。

「会社は従業員のためにある」のです。

経営者としては悔しいと感じる方もいます。

「なんで、給与と仕事を与え、自らの存在が、その従業員のためにあるのか」

それならば、雇用しない、自らのみで働くようにすればよいのです。経営者にならない生き方もあることを知って下さい。

その上で、かつての「工場モデル」という、大量生産における工場での働き手として、ある程度の知識水準にあり、従順で、我慢強くて、協調性がある人材が担う「労働」は絶滅し、能力の有無、障がいの有無などに関わらず、一人ひとりの存在が大切にされ、各々が役割を持ち、居場所があり、月曜日も行きたくなる会社に変わっていく時代になったのです。その波は「まるでオセロゲームの白と黒が一気と変わる」よう、次々と「いい会社」になっていく様子が目に浮かびます。

<経営者としての役割を担う>

役割について詳しく言えば、会社で働く人は「同じ船に乗り合わせた人」であり、その「船」を持っている人がいて、その「船」に乗るために「漕ぐ」ということを担当している人がいて、方向性を見る人がいて、という役割があるに過ぎない、認識することです。

だから、経営者も役割のひとつとなります。

役割のひとつと言うには双肩にかかる責任は多大ですが、在り方としては、こうなるのです。経営者にとって、この責任と権限の縮小であれば、とてもやっていけないと思うならば、「いい会社」になっていく様子から離れ、儲けを目的にガムシャラな会社も経営すればよいです。そして、誰も幸せになれない、その気持ちを知ることでしょう。

また、その役割は、割り振られたからには、それを遵守すべきであり、不平不満や公平感は関係ない、というものではありません。経営者の役割からは逃れられない、諦観するしかないのです。役割は、会社が決めたことだけを指すのではなく、働く人の考え方、意識の方向性としてもあるのです。「企業理念」を軸にして、自らの意志をもって貢献していく在り方とも言えます。だからこそ、そこには健常者と障がい者の区別も性別もなく、お互いを「企業理念」の基に集う仲間として尊重し合うことが可能になるのです。

<「企業理念」で不安を緩和する>

ものごとがうまくいっている時には、人はお互いを大切にして信頼し合うことも容易となります。
ただ、ものごとがうまくいかない時には、不安を感じると共に他者への批判的な視線が強化されがちになり、会社の雰囲気に悪影響を与え、それが尚更うまくいかない要因になったりします。けれども、「企業理念」があり皆へ浸透していれば、経営陣はあるべき姿に向かい、批判に振り回されることなく経営することが可能になります。

働く人も様々な社内外の情報に対し、疑心暗鬼に陥る歯止めにすることができるのです。
悪いときには悪い情報に振り回されるものです。この取り巻く環境に振り回されそうになる時に、揺れないために自分が安心できる場所があるということは、精神衛生上もとても大事です。疑心暗鬼は思い込みを陥れます。

思い込みは事実を捻じ曲げてしまうので、行動が間違った方向に流れてしまいます。
その崩れた歩みの一歩目を防いでくれるのが、まさに「企業理念」なのです。「企業理念」を社内の全員が深く認識していることで、誰かが一歩目を踏み出してしまいそうになっても、歯止めとなって防止することが可能になるのです。

<「企業理念」は有効なのか>

「企業理念」についてよく言われていたことに「企業理念で売上が上がるなんて聞いたことがない」
ということがあります。確かに、中途半端なカタチだけの「企業理念」ごっこでは、売上が上がることを期待することはナンセンスです。けれども、近頃では「企業理念がないと売上が上がらない」に近い認識に変わってきているのを感じます。

パーパス経営もその一環です。

お客さまとの関係も、お取引さまとの関係も、信用が大切なのは当たり前だと思います。

「ホームページに自社製品が並んでいるだけの会社 VS 企業情報がきちんとある会社」 はどちらが信用されやすいでしょうか。「企業情報に「企業理念」がない会社 VS 企業理念を載せている会社」
はどうでしょうか。

更に言えば

「「企業理念」が会社情報にあるだけの会社 VS 「企業理念」が全面に出ている会社」 はいかがでしょうか。

その理念に共感するほど、「企業理念」が軸となっているとわかることが信用も獲得していくことがイメージできると思います。そうなるためにも、本当に「企業理念」を軸とした活動をしていくことが大切になるのです。

「「企業理念」があったとしても、利益は増えない」ということも言われがちです。

例えば理不尽な値引き要求を突き付けられた時、「売上が減るのを避けるためには仕方がない」とするのか、「それは「企業理念」に合わないし、社員さんの誇りを傷つけるだけだから取引を止めよう」
とするのか、どちらを選択するでしょうか。取引先、下請けのため諦めるのは根底に考え方が乏しいのかもしれません。

もし「企業理念」が軸としてなければ、取引を止めるなどということは恐ろしくてできません。「企業理念」がなく、従業員が勝手に取引を中止すれば業務命令違反であり、そして隠蔽することで不祥事にも繋がります。それで倒産してしまったら元も子もない、と考えてしまうことでしょう。

故・小倉昌夫氏のヤマト運輸株式会社が三越の理不尽な要求に耐えかねて、契約配送業者という立場を捨てて、取引を止めるという苦渋の決断をしたのは有名な話です。これは経営者の英断という美談でなく、こういう決断を「企業理念」を軸にしないでできるのは、よほど胆力のある経営者だけでしょう。
ヤマト運輸株式会社では、それ以降、「企業理念」を整備しました。

反対に、理不尽な値引き要求に対して、「「企業理念」に沿って受けるべきだと判断し、前向きに取り組んだ場合 VS 「ふざけるな」と思いながら、自社の立場を嘆きながら受けた場合」、この結果はどうなるでしょうか。その時の総利益は同じだとしても、「企業理念」に従って誇りを維持して引き受けた場合に対して、単に事象だけを追った場合では従業員のモチベーションは下がり、どんどん生産性が落ちてしまい、それを回復させようと管理側と従業員さん側の軋轢も生じ、混迷は仲介役も果たさぬ労働組合も巻き込み、値引き対応の回数を追うごとに社風も悪化することが想像できるのではないでしょうか。
そして、従業員さんの退職に繋がり、採用に更に費用がかかることにも発展していきます。これは中小企業でも容易に起こる現象で、優越的地位の乱用をされる結果として甘んじることになります。減員した分は残業対応となり、人件費の増加により原価は更に増加し、利益はどんどん下がることになり、最悪、事業の継続ができなくなるという事態に発展してしまうかもしれません。

<企業理念の浸透は紙1枚の積み上げ>

紙1枚の差を積み上げていくことができるかどうかが、「いい会社」になれるかどうかを分けます。
最近の言葉遣いで、「1mmも思わない」などと、わずかでも「ない」ことを「1mm」と表現します。
では紙1枚の厚さはどうでしょうか。よほどの厚紙でない限り、1mmより薄いことは感覚としてわかると思います。

「紙1枚の差を積み上げる」というのは、「ない」よりももっとわずかに感じられる差を積み上げていけるかどうか、ということなのです。

反対に、1mmに満たない紙でも、積み上がると大変なことになるのは、机の上で実感できます。
何を言っても、何をやっても1mmも変わらないと感じても、積み上げることを諦めないでください。
諦めてしまうかどうかは、企業理念を軸にして「いい会社」にしたいとどこまで想えるかどうかです。
そのため、本文ではしつこく考えることを求めました。もしため息が出てしまうようであれば、その時に書いたものを見返してください。そしてもう一度自分の想いを固めてください。
1mmも変わらないように感じていても、確実に積み上がっていることを信じてください。当たり前が積み上がった時、真似のできない圧倒的な差になって見えてくることを楽しみにしてください。

<「企業理念」を浸透させても・・・>

「企業理念」を軸にして、社内にも浸透しだしたとしても、いきなり「いい会社」へとドラスティックに変わることはありません。急に売上が増加することは、ありません。急に利益が倍増することも、ありません。従業員さんが働きやすくなることも、すぐには起こりません。振り返れば少しずつ好転していることも、その他の要因と絡まってなかなか見えてこないかもしれませんが、時間軸を長くみれば、全て達成されていることでしょう。また、「企業理念」を軸にしようとするときに、古くから居る従業員さんは「今までのやり方」にこだわる人との衝突も覚えておいてください。

人は変化を好みません。

「企業理念」を軸にすることがイヤなのではなくて、今までと変わることがあるかもしれない、ということがイヤなのです。もしかしたら、一時的な社風の悪化が起きるかもしれません。それでも揺れないでいられるかどうか、「社長の本気」が問われるのです。だからこそ、考え抜くことが必要なのです。
あれだけ考えて「企業理念」を軸にしようとしたのだから、ここで引き返すわけにはいかない、と肚を括れるかどうかなのです。

<「企業理念」は誰が創るのか>

「企業理念は、想いがすべてです。そうでなければ行動には結びつきません。心の中で想っているだけよりは、日々口に出して言うことで、自分の中により浸透していきます。アファメーションという手法と同じです。「ありがとうございます」と繰り返しているうちに本当に有難いと思うようになるのと同じです。例えば、もし従業員さんの存在を有難いと思えないところがあるのなら、毎日「ありがとうございます」と従業員さんに言ってみてください。どんどん大切な存在に感じられるようになります。
そう、毎日「ありがとうございます」と言ってみるのです。そして、「企業理念」は経営者が考えて作ったものだからこそ、強い想いが込められるのです。

従業員さんたちと相談して決める方法もありますし、その方が浸透も早いという効果もありますが、
従業員さんたちは変動要因です。

従業員の立場は、経営者のそれとは違います。

不動の存在である経営者の強い想いだからこそ、軸となり得るのです。
だからこそ、継承においても「企業理念」の継承が一番に重視されるのです。

<「企業理念」で価値観の向きを揃える>

従業員さんには、それぞれ異なる価値観があります。

そのバラバラな価値観を「企業理念」という御旗に向けて、合う部分は添わせ、合わない部分はどうしていくのかを決めてもらうことで、大きな塊としての価値観を揃えていくのです。
自分の価値観との整合性がとれていることを認識すること、自分の在り方と寄り添わせることができて、
組織の中で貢献することができるのです。
従業員さんそれぞれの中で「していいこと」と「してはならないこと」の価値観が違っていては、組織として成り立ちません。

してはならないことに対し、どうしても自分の価値観と合わないようであれば、それは転職してもらった方がお互いのためになります。
合わない価値観の中で長い時間を過ごすことは、幸せに働くことと反対になりますし、その場所で活かされることもありません。

<番頭さんより「企業理念」>

組織には、古くからいる従業員さんの中で、番頭役を担っている方はいらっしゃいますか。求心力のある古参の社員さんが会社をまとめている場合もあります。経営者はニコニコと存在していて、要は古参の社員さんが担っているような場合です。

実はそう見えても、経営者がニコニコと存在しているからこそ、そのようになっているのであって、経営の一つの在り方とも言えます。

番頭さんが強い会社です。

頼りになる番頭さんを大切にしても、いつまでもいてくれるわけではありません。次の番頭さんも頼りになるとは限りません。番頭さんを求めて大企業の人を再雇用する動きもありますが、それは違う意味で、「経営理念」を知らない人を移植するのは避けるべきだと思います。
複雑な時代、番頭さんは番頭さんの仕事をするので、経営者は経営者の仕事をするようにと言われるかもしれません。

それでも「企業理念」が土台となったうえで頼りになる番頭さんが活躍しているならば、すべきことも、してはならないことも明確になっているはずです。
そこを確実に継承していくことで会社を守ることができます。けれども、もし頼りになる番頭さんの土台に「企業理念」がないならば、全ての判断基準が番頭さんという個人の資質に基づくものとなり、継承は不可能になるでしょう。いくら事例をもって教育しても、新しく起こることには対応できません。そうならないためにも、「企業理念」を根底に置くことは重要なのです。

<「いい会社」にしたいときの禁忌>

働いて幸せになる経営の実践、私たちTNCでは「いい会社」経営と言います。「いい会社」にしていくための禁忌があります。「企業理念」から自分で考えないで、どこかの会社でうまくいった施策を導入することです。これを行ってうまくいけばラッキーです。

ただ、そうでなかった場合、定着しない → 強制する → 社員が疲労する → 廃止する → 会社への信用が低下する 

という道筋を通り、経営層とし夜陰さんとの断絶まで発展してしまいます。そうなると、もはや「企業理念」は「ないほうがマシ」という事態に陥ります。「企業理念」から自社に何が必要なのか、どのように使えばいいのかを一所懸命考えて、何か良い方法は無いかと模索した時に、たまたま他社の事例がぴったりきたのならいいのです。その場合、うまくいかなくても、どこの考え方が違っていたのかを追うことができます。それを従業員さんに説明することもできるので、「強制」の段階に進むことはないからです。考えなしに導入した場合には、必ずといっていいほど

「あの会社ではうまくいっていたのに、どうしてうちの会社ではうまくいかないんだ?
お前たちは何をやっているんだ!」

と従業員さんが悪いという判断から強制していくのに至り、考えた末であれば、従業員さんのせいではなく、自分の考えが足りないという反省になるところが大きな違いです。

<考えるための「7つ道具」手法のご紹介>

A.意識を明確にする「マンダラチャート」これは9マスを基本にしながら、発展させていくもので、メジャーリーガー大谷翔平氏も活用している方法です。中央に最も大切な想いを書き、それを中心にした9マスにはそのために必要なことを書き、その一つひとつを中心とした新たな9マスを展開していきます。9マスが9個できることになります。「何のために」「何をする」ということが明確になります。
会社の場合、中心は「永続させる」になるのでしょうか。

B.潜在意識を明らかにする「ブレインダンプ」
これは自分の頭の中にある情報をすべて吐き出して、自分が何を考えているかを把握するための方法です。潜在意識との対話方法とも言われています。
テーマは「会社はどう在るべきか」などという大きなものを選んではいけません。「好きなこと」「イヤなこと」「嬉しいこと」「やりたいこと」など、小さなテーマについて、もうこれ以上何も思いつかないというところまで自分を追い込んで書き出します。それによって、自分が考えていることを客観的に知る事ができます。

C.イメージを拡げる「連関図」
ブレインダンプで出てきた内容を関連づけ、大きな括りにしていく方法です。
それにより、思考を集約していく方法です。

D.思いを繋げる「マインドマップ」
マンダラチャートと同じように、思考を紐づけて拡散していく方法です。

E.リアルな声での記憶で綴る「録音」
インタビューを受けているような感じで、小さなテーマについて述べていきます。
誰かに話すことで自分の考えがわかった、という体験があると思います。それを狙った方法です。
実際にインタビュアーがいてもいいですし、一人芝居でもいいと思います。「書く」ということが面倒くさい人にもお勧めの方法になります。

F.確かな印象を残すための「聞き取り」
コーチやコンサルタントの方に、聞き取ってもらう方法です。録音と違うのは、質問が的確になるところでしょうか。また、上手に相づちが入ることで、話がしやすくなるという効果も期待できます。

G.スムーズな定着に「コーチをつける」
あるべき姿はまだ見えなくても、どんな経営者になりたいのか、経営者とはどうあるべきなのか、ということを導いてもらう方法です。その在り方から会社を考えた時に、会社のあるべき姿が浮かんでくることでしょう。ただし、ここでは気をつけなくてはならないことがあって、経営者のあるべき姿に会社を合わせてはならない、ということです。経営者のあるべき姿から、会社はこう在るべきだという姿が浮かんできたとしても、本当にそれで働く人が幸せな会社になるだろうか、従業員さんとその家族、お取引さまとその家族、地域社会の皆様を幸せにすることができるだろうか、と考えることが必要です。もしかしたら、経営者としてのあるべき姿をもう一度見直す必要も出てくる場合もあります。

<質問リストの例を挙げておきます>

➀創業者・理念を既に持っている
現在、ご自身が創業者であり、何らかの理念が掲げられている場合です。

・現在の「企業理念」は、創業の志、創業の理念と合致しているのでしょうか。
・自社ホームページに、それら理念は載せているでしょうか。
  ・載せているとしたら、どのような想いで掲載したのでしょうか。
  ・載せていないとしたら、その理由は何でしょうか。

➀-1 従業員を居る場合
従業員さんにインタビューして、どのように捉えているか聞いてみてください。

・従業員さんは、現在の理念に対してどのように感じているでしょうか。
・従業員さんへの想いはどのようなものでしょうか。
・理念を変更した時に、従業員さんたちはどのように感じるでしょうか。
・創業者や先代と接している従業員さんは、何割ぐらいでしょうか。
 
その方たちと、他の方たちと考え方に差があるでしょうか。

➀-2 従業員はおらず家族のみ又はおひとりで経営されている
・お取引さまへの想いはどのようなものでしょうか。
・将来、従業員さんが加わってくれた時に、どのような会社で在りたいでしょうか。

➁継承者・理念を既に持っている
現在、ご自身が創業されたわけではない会社で、何らかの理念が掲げられている場合です。

 ➁-1 創業理念を掲げている場合
・現在の理念は、創業の理念と同じでしょうか。
・創業者から直接、創業の志を聞いているでしょうか。
・創業者の想いを正しく理解しているでしょうか。
・創業の理念を活かすには、どうすればいいでしょうか。
・創業の理念から離れたい理由は何でしょうか。

➁-2 創業理念をない又は掲げていない場合
・現在の理念のどこに違和感をもったのでしょうか。
・創業の理念はどうして無いのでしょうか、また掲げていないのでしょうか。
・創業者の想いを探し出す必要を感じているでしょうか。

➂創業者・理念をつくっていない場合
 これは、ご自身が創業者であり、理念は明文化されていない場合です。

・理念を作らなかったのはどうしてですか。
・理念を「ことば」にしていない理由はなんですか。
・どのような想いで創業されたのでしょうか。
・永続するために大事だと思うことは何ですか。

  ➂-1 従業員がいる場合
 従業員さんと共に考えてみてください。

・従業員さんはどのような想いで会社にきてくれているのでしょうか。
・従業員さんはどのようなことがこの会社の存在意義だと考えているのでしょうか。
・従業員さんへの想いはどのようなものでしょうか。

  ③-2 従業員がいない場合(家族のみで経営またはお一人で経営)
・このまま理念をつくらないで経営しますか。
・今後、従業員さんを雇用するつもりはないのでしょうか。

最後に、私たちTNCが期待すること
今回、創られた「企業理念」が、会社の軸となり、土台となって、ブレずに永続されていくことを心より願っております。「企業理念」の浸透につき、その極意は「諦めないこと」、 これに尽きます。

ある日を境に社内がカラッと変わる・・・などということは期待せず、コツコツと語り続け、行動で示していくしかありません。「企業理念」に込めた想いを一滴一滴沁み込ませていくしかないのです。時間がかかるものと納得して、浸透させていってください。

山登りと同じで、シンドイと思ったときに振り返ると、社内が変わってきていることに気づくはずです。私たちTNCでは、応援者であると同時に伴走者として、お手伝いできることを進んで行いたい。そうしたら、また少しガンバれますよね!心からの経営になる日まで、応援しています。

(文責 青木篤実・理念研究家/TNC『理念のつくり方』)

 <参考1>
厚生労働省 「働き⽅の未来2035」 
3.6 働き方の変化がコミュニティのあり方を変える
「個人の働き方が大きく変わることによる企業の変質は、コミュニティのあり方にも大きな変化をもたらす。
これまで企業は、単に働く場を提供するという機能にとどまらず、ひとつの国家、あるいはコミュニティ、家族のような役割を担ってきた。とくに伝統的な大企業ではこの色彩が濃厚だった。だが、自立した個人が多様な価値観をもって自由に働く社会では、働く人の企業への帰属意識は薄れ、疑似コミュニティとして機能することは難しくなっていく。
これまで企業が担ってきたコミュニティの役割を、代替するものが生まれてくるに違いない。生活を重視する流れが強まれば、実際に居住する地域コミュニティの役割が再び重要になってくる可能性もある。地域コミュニティでの相互扶助などが働く人を支えることもあり得る。一方で、SNS などを利用したバーチャルなコミュニティが一段と重要な位置を占めるようになっているのは間違いないだろう。
ICT の進歩は、バーチャルなコミュニケーションに急速にリアリティを持たせるに相違ない。同じ企業で働いているという帰属意識よりも、同じ職種や専門領域で働いているという共通意識の方がより強くなり、SNS などで疑似コミュニティを作っていくことになるだろう。こうした疑似コミュニティによる連携が、個々の働く人と企業などが契約を結ぶ際に、より対等の力関係を持つことに寄与するようになるに違いない。こうした変化に対応するために、労働組合も企業別・業界別の運営から職種別・地域別の連帯も重視した、SNS や AI、VR などの技術革新も活用した新しい時代にふさわしい組織として進化していくことが求められる。」

<参考2>
稲盛和夫 「大家族主義で経営する」 

「私たちは、人の喜びを自分の喜びとして感じ、苦楽を共にできる家族のような信頼関係を大切にしてきました。これが京セラの社員どうしのつながりの原点といえます。この家族のような関係は、お互いに感謝しあうという気持ち、お互いを思いやるという気持ちとなって、これが信じあえる仲間をつくり、仕事をしていく基盤となりました。家族のような関係ですから、仲間が仕事で困っているときには、理屈抜きで助けあえますし、プライベートなことでも親身になって話しあえます。人の心をベースとした経営は、とりもなおさず家族のような関係を大切にする経営でもあるのです。」