世界に通じるモノづくり

きちんと仕事(モノを作る、サービスを提供)する

序文:手 → 道具 → FA → ITとの連動 → IOT → AI(自働化)+人の手をかけること。

1)ものづくりは古くはすべてが手作り。
  古くは田畑を作ること、小正月の行事で農作の作り物を作ることなどを指し、手で行われていた。縄を編む、器を作る、鉄器を作るなど、古来の方法でモノづくりが行われ、主に自家需要として利用されている。

2)道具を用いたモノづくり
  手工業といわれるよう、道具を用いた手作りが長きにわたって営まれてきた。
  職人(マイスター)といわれる人々が、道具、冶具を自作し、改良を重ねながら、モノづくりを行い、家業として販売を行うようになる。
  このモノづくりはひとつひとつ手作りであることから、大量生産には向かない方法であり、モノづくりにおける作業の標準化が行われることはあまりなかった。基本は、職人の勘と経験であり、親方から弟子へ、口伝などのOJT(一子相伝など)で伝えられることが多いものであった。
  近代に入り、蒸気機関などの発達により、工場へ生産が移行し、大量生産へ移行する製品も現れるようになった。

3)FA(Factory Automation)の導入
  生産の場が工場へ移り、流れ作業などで大量に生産が行われるようになると、次は、人によって行われていた作業を、産業用ロボットなどを多用して無人化が図られるようになる。人間による作業ミスの削減、作業効率の向上、人間の安全性を確保するために導入が図られた。

4)IT、IOTとの連動
  製造の現場は、生産現場に自動機械や数学的ツールや組織的ツールを結合させ、その応用範囲を急速に拡大させ、人間の活動領域を広げるよう努力してきた。
5)AIの併用と人の手。
自働化が進み、量産化が図れるようになったが、製造現場で人の手を介して行われる作業はまだまだ存在する。
人間のパターン認識能力や言語能力は、現代の機械やコンピュータシステムの能力の範囲外である。例えば香りや音といった感覚データの主観的評価や複雑な統合が必要な仕事などは、人間の専門知識を用いて行うほうが、現状では費用対効果が高い。
今後は、人間にしかできない領域を、AIを用いることでより精度が高い自働化へと発展することが想像される。

(1)中小企業の製造業の現状:総論とする(下請けに甘んじる中小の実情と原因)
企業理念:
経営理念等は策定されていない場合が多く、策定されている場合でも、特に理念経営といわれるようなものではない。(ホームページ制作時に、必要に迫られて策定される場合も多く見受けられる。)
そのため、社員は自社の経営理念を知らないことも見受けられる。
ここ数年は、経営理念づくりブームなどを反映して、経営理念づくりに着手されている企業も増えてきたが、理念経営とまではいかないケースも多い。

営業面:
部品製造、加工等を主とする30名以下の企業などでは、4次、5次請けとなることもあり、価格決定権がない(自社で価格を決めることができない。)。
社内でも、生産計画はなく、受注に応じて生産を行うという形式となり、受注予測が重要となる。また、あくまで予測であり、顧客の売上や生産量に影響されることが多々あり、しゃないの計画が立てにくい状況が続く。
営業も御用聞きが多くなり、新規顧客獲得への動きは、消極的な部分もある。

一方、自社で設計・開発、原料調達、量産、販路確保を行うといった、メーカーとしての立ち位置を確立し、リスクをとったモノづくりも行われるようになってきた。

大手との取引を行っている企業では、顧客による社内監査が行われることにより、手順書などの整備が進む例もある。新規取引の開始もしくは取引継続するために、社内のレベルを上げていかざるを得ない状況となるため、社内の改善が進むこともある。
顧客監査の対応を行うスタッフを固定することにより、ノウハウの蓄積が進むことがあるが、担当者の退職により、ノウハウが一気に失われ、顧客の信用を落とすこともある。計画的に担当者を育成している場合はこの限りではない。

モノづくり:
製造における標準、手順等が整備されていない。現場には、以前からある、油のしみた作業メモらしきものが点在するが、会社として正式に承認したものではなく、作業者が備忘録のように書き留めたものである。場合によっては、担当者の頭の中の記憶といったこともあり、ほぼ社内の共通認識となっていないことがある。
不良品の発生、顧客からの苦情対応を行うが、その場しのぎの感があり、再発防止には至らず、また、再発防止策が文書化(標準化)されないため、再度発生するという悪循環が発生している。

仕事の多くは口頭指示であり、作業手順などが作成されていないことが多い。
また、在籍の長い者は仕事の進め方、やり方を理解している(これも教えられたものではなく、各員が自分で会得したものが多い)が、若手には伝えられていないことが多く、仕事が属人化している。
仕事を覚えるのは、覚えなくてはならない人たちの仕事で、仕事を分かっている人は、教える必要はないという風潮のため、実際には、ベテランが話をして、そら、やってみろという仕事の受け渡しになってしまう。
このことから、新人の作業者は、仕事を覚えるではなく、ただ、言われた作業を行うのみで、仕事への理解が乏しくなってしまう。

一方、「いい会社」とされる企業では、作業手順書、作業指示書などの文書類の整備がすすめられ、言った、言わない、伝わってないといった初歩的なミスはほぼほぼ発生しない。
また、手順書などをもとにした若手への教育が計画的に行われており、若手への技術の承継が進んでいる。「いい会社」では総じて、アットホームな雰囲気にて、教える、教えられる環境が整備されていることが多い。

委託:
業務の細分化、製造能力越えの対応の為に委託先での製造、加工なども増加している。
委託先での製造に関する基準があいまいな場合もあり、委託先にお願いするが、不良品が頻発し、社内検査での不良品検査、手直しに終始することもある。そのような事態が頻発すると取引停止という形で、次の委託先確保を行うことになるが、小規模零細が廃業などに至るケースもあり、良質な委託先が確保しにくい現状も出てきた。

社員教育、社内風土:
社内での教育体制がない場合が多い。仮に、社内で教育している場合でも、場当たり的であり、体系的に行われていない場合が多い。
そもそも教育の必要性を感じておらず、言われたことをやっていればそれでいいという感もある。意欲のある社員も、社歴を重ねるとともに、既存メンバーに飲み込まれ、今の仕事をやっておけばよいという空気を受け入れてしまう。

コラム

①なぜ標準が必要なのか?

仕事の属人化を防ぎ、技術が承継される土台を作るため。

②ISOは役に立つの?

ISOそのものは役に立たないが、社内の標準作りを行う工程に意義がある。
認証が目的であれば、あまり用をなさない。

(2)あるべき姿:(見学事例などは問題ない範囲で記載)
「いい会社」には理念に基づく、社内の標準化がある。

会社の見える化、理念:
会社には様々な機能があり、一人親方の会社でも、雇用がある会社では大きくは変わらない。まずは、会社の機能を明確にすることから始める。
(整備されていない企業でのフレーズ、「うちって特殊でね、俺、たくさんの仕事持っているんだよ。」などを聞かされることがある。)
営業、調達、生産管理、開発、製造、検査、包装・梱包、出荷、物流、回収などの会社の機能を理解し、社員の適性などを把握したうえで、人財の配置を行う。

サッカーチームを作る場合であれば、点取り屋はフォワード、状況を読み、的確なパス出しをする人はミッドフィールダー、相手の狙いを読むことにたけ、ボールを取り返すことがうまい人は、ディフェンダー、ジャンプ力など基本能力に優れたものはゴールキーパーなど。また、監督、コーチ、マネージャーなど裏方も必要となり、ポジション(機能)に応じた人材を配置し、チーム作りを行う必要がある。

ゲーム(遊び)を行う際にも、作戦は立てる。
今日は攻撃的に(あるいは守備的に)などを決め、各員の役割を明確にしてゲームをする。会社も同様に、仕事のやり方を手順書や指示書で明確にすることにより、各員の仕事のやりやすさが格段に向上する。
製造業の基本である5Sなどを通じて、全体最適を図ることにより、課題が明確になる。課題への対応は個々人では進まないため、仲間との連携(チーム作り)が必要になる。連携するにあたり、会社全体の考え方である企業理念を明確にする必要があり、その後、理念が完成する。

企業理念をもとにした、改善、進化のための課題対応が会社を鍛え、改善し続けることが、会社の幸循環を生み出している。

仕事は手順書などを作成し、誰にでもわかりやすく:
仕事のやり方が、明文化されており、だれもが分かるように整備されている。
仕事の意義、必要性が教えられ、なぜ、この仕事、作業を行う必要があるかが明確になっている。
出来た、失敗したが記録され、次の改善を図るための教育ネタとなっている。
 
(3)道のり:
1)会社の業務を整理する。
 会社機能を図にすることにより、社員自身が、自社の仕組みを理解する。

2)ビジネスモデル理解する
 お客様は誰なのか?どのようにして会社が儲かっているのか?協力者(仕入先、委託先)にお願いしていることは何か?などを理解する。

3)作業内容を
 ①明文化(手順書など) ②記録化 ③標準化 する。

4)標準の共有
 社内で標準を共有し、仕事がうまくできるか確認する。

5)トレーニング
 標準に従って作業ができるよう教育、訓練する。
 実際に仕事をした際に、作業、標準の改善ポイントが発見されることがある。
 
事例:
 食品製造M社:
 販路開拓に困り、海外進出を図ったものの、良い製品づくりができず、品質がなかなか安定しない状態が続いていた。たまたま、地元で開催された講習会で、社内標準について学び、自社に足りないものを理解したことがきっかけで、社内の標準化を図ることを決意。
海外での食品流通においては、HACCP、FSSC22000などの食品安全規格が必要となることから、FSSC22000導入を決定。FSSC取得を目指すことにより、社内業務の標準化が開始された。
中小企業では体系的な学びの場が少ないこともあり、戸惑うこともあったが、海外での商売、社内標準化の為という目的が明確にされたこと、また、推進チームメンバーによる熱心な学習と社内への水平展開により、熱が全社に波及したことで、社内標準化、取得が一気に進んだ。
社内標準化が進んだこともあり、社内からの改善提案が活性化され、様々な顧客への対応が可能となった。商品開発と製造現場の仕事の進め方が明確になり、試作から量産への移行がスムースになったことも会社の大きなメリットとなった。

 金型製造●社:
 社内では、生産管理を学習することにより、会社のレベル向上が進んでいる状況であった。社内の標準化を図るために、ISO導入を決定された。若手の成長を促すため、各部門からベテランと若手のコンビを選出し、推進チームを構成した。
 役員から選抜され、キックオフしたが、社内の温度差はそれぞれ、一体感があるとはいいがたいものであった。
とある若手も、「この仕事って、お金(残業代)出ますか?、いつも通り製造もあるので、この活動が入ってきて、大変なんですけど・・・」といった雰囲気であり、とてもではないが、全社プロジェクトにはならない状況であった。
その後、地元商工会のセミナーなどへの参加を通じて、本人に火が付き、気が付けば、ベテランを差し置いて、活動のリーダーとなり、部門の課題解決に動き回るリーダーとなっていた。
社員に学習する機会を作ることを好まない経営者の場合は仕方がないが、学習する場を提供しているにも関わらず、社員の学ぶ意欲がない場面にも遭遇する。
 上記の例では、時間と手間がかかってしまったが、きっかけは人それぞれであり、火が付くテーマを提供しつづける必要性がある。

アルバム製造:
 もともと学習意欲の高い会社で、採用から仕組みづくりを行っていることもあり、所属している社員さんのやる気が高い。
お客様の情報管理を行うため、情報セキュリティの取り組みを開始した。手始めに、仕事の流れを見える化すると、出てくる出てくる改善ポイント。
社内の改善活動は行われていたそうであるが、場当たり的で、案は出てくるものの、まとめ方などがよく分からず放置されていたとのこと。
業種としてはサービス業であるが、製造業の要素を社内に持ち込むことにより、改善が一気に進んだ。
レベルが高いと思われる会社でも、他業種の要素を取り入れることで、さらに学習意欲が高まり、改善の停滞感を払しょくすることができる事例である。
この会社では作業手順を作成し、実直に実行した。その結果、現場で本当に運用できること、できないことを明確にすることができた。
 
4)現場の窓から(現場あるあるのコラムはブログにて)
・業務の見える化(業務フロー、ビジネスモデル)
・部門、担当の役割
・KKD(勘、経験、度胸)、職人技からの脱却
・コア技術(職人技)の承継(コーケン工業さん)(東海バネ工業さん)
・社内の学び
・業務フロー、仕様書、QC工程表、作業標準、検査基準等の整備
(誰がやってもきちんとしたモノが作れる(再現性))
・明文化→記録化→標準化
・ITとの連動(マニュアル作成の簡素化)
・製造に求められるスキルの明確化(キモノブレインさん)
・調達先、委託先の管理(オール地元調達:フジイコーポレーションさん)
・監視機器・測定機器の管理
・表示、識別、追跡管理
・含有成分の見える化(製品流通、海外輸出等)
・冶具等の工夫(オムロン京都太陽さん)
・現場の整理整頓(5sなど)
・働きやすい職場(体への負担軽減)(オムロン京都太陽さん)
・現場の労働安全
・製品情報の管理
・製品開発の整備
・製造者責任
・不良品管理
・不良品の再発防止について

5)まとめ
 会社での行われていることはすべて必要事項であり、無駄なものは何もない。
 必要な社内業務を明文化し、社内で共有することが、第一歩。
 会社の軸を作り、社内の意見を集約することで、社内の連携、情報共有が図られていく。最初からうまくはいかないが、根気よく続けていくことで、徐々に連携、共有が深められていく。この過程を省いていては、会社の発展はおろか、継続も疑わしい。
中小からの脱却を図れた会社が必ず通る道、標準化に取り組んではいかがだろうか?
企業価値の創造は、きちんと仕事をすることが土台となり、通常業務を確実に遂行することにより、創造への力、時間を得ることが可能となる。
後手後手の仕事から、将来を考えた計画的な仕事へ進むために社内業務の標準化は避けて通れないのではないだろうか。