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価値を伝え続けることの大切さと難しさ

TNC「経営者のお金の使い方」チームの森久です。
今回は『お金』にまつわるちょっと変わった話です。

突然ですがこちらの写真をご覧ください。

これは、私が青年海外協力隊に参加していたミクロネシア連邦ヤップ島で撮った写真です。

なんだと思いますか?

楕円形です。真ん中に穴が開いています。大きさもまばらです。

コンクリートでしょうか。石でしょうか。

なんだか、お金のようにも見えます。

価値はあるのでしょうか?

これはミクロネシアでレイ(石貨)と呼ばれる貨幣で、現在も価値をもって流通しているれっきとした『お金』です。写真奥の石貨で高さ約2m、横幅約1mですが、島内には大きいものでは高さ6m、幅6mになるものもあります。

年配の方なら、こんな映像を思い出すかもしれません。

(引用:『はじめ人間ギャートルズ』 朝日放送・東京ムービー)

まさにこのイメージです。

流通する貨幣といっても、普段からこのお金を持ち歩いて買い物をするわけではありません。日常的な貨幣はアメリカドルが使用されています。この石貨、普段は「石貨銀行」といってそれぞれ村の中心地に並べて置いてあります。どの石貨が誰の所有物なのかは全て村人が知っています。

どんなときに使用するのかというと、結婚の結納品、家やカヌーなどの高額な売買や村同士のもめごと(賠償責任が発生したとき)などに、この石貨が使われます。この結婚にあたりわが家からはこちらの石貨をお渡しします、とか、この諍いはこの石貨で収めていただけませんか、というようにそれぞれの石貨の価値で話し合いが行われます。

では、どのように『石貨の価値』が決まるのでしょうか。

実は大きさや形ではありません。この石貨、実はヤップ島内で掘り出すことのできない石で、遠く離れたグァムやパラオから切り出して帆船に乗せて運んできたものと言われています。そのため、航海技術・採掘技術の浅い時期のものや、航海の際に嵐に遭い何人の島人が亡くなった、などの航海に関する苦労や逸話が価値になります。そしてこの価値は『口伝』によって伝えられています。(いわゆる家宝とかアンティークに近いものと私の中では理解しています。)

ところが、私が島に住んでいるときにある事件が起きました。

とある村の石貨にやんちゃな子供たちが落書きをしてしまったのです。第一発見者は腰を抜かしたそうです。村人総出で犯人探しが始まり、もちろん子供たちはかなりのお叱りを受けたと聞きましたが、「こんなことは島内で初めてのことだ」「最近の子供たちは」「嘆かわしい」などと村人たちは嘆いていました。

なぜこんなことが起きたのでしょうか。

私は、おそらく子供たちに『石貨の価値』が伝わっていなかったのではないかと思います。石貨は文化と使い方によっては、家や帆船が買えるほどの高い価値のあるものです。しかし、何も知らない子供たちにとっては道端にあるただの大きな石です。だから落書きができてしまったのではないでしょうか。正直、私が日本でこれを庭に飾っていたとしても(実際には島外持ち出し禁止)、話のネタ以上の価値はないと思います。

使い方を決めた当時は、経営者の強い想いや願いが込められて大きな価値を持っていたものの、その価値がしっかりと『口伝』されておらず、若い社員や社歴の浅い社員さんに真意が理解されていないもの、むしろなぜこんな制度やお金の使い方があるんだと批判の対象になっているもの、ありませんか。伝える側が思っている以上に、見えない価値は伝わらないものです。

しかしながらこの『石貨』、独自の文化が育ってきたヤップ島ならではの遺産として、その特異性が『新たな価値』となり、文化的な研究価値や観光資源となっています。文化の伝承を目的に毎年3月に行われるYap Dayでは多くの観光客がその文化を楽しみに訪れます。日本でもNHKの【地球イチバン】という番組で世界一大きな貨幣として特集されています。

会社の中にある『石貨』には、必ず経営者や先代社員たちの強い想いや文化が詰まっているはずです。その価値がしっかりと伝わり浸透していなければ、世代や時期、場所によって無意味なものになってしまうかもしれません。逆にその価値を正しく伝えることが出来れば、その文化は永年に受け継がれて『企業文化の根幹』となり、時には時代に即した『新たな価値』を生み出すことになるかもしれません。

あなたの会社にも『隠れた石貨』、ありませんか。

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